コラム

アメリカで急速に広まった言葉「Meh」の背景にある国民の気分とは?

2023年12月24日(日)18時15分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
LGBT, meh, アメリカ, イディッシュ語, ザ・シンプソンズ, ドナルド・トランプ, パックン, 人工妊娠中絶, 共和党, 民主党, 沢尻エリカ

©2023 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<20年足らずであっという間に広がったスラングが表す政治への絶望を、米出身の芸人パックンが読み解きます>

史上最高のバイリンガル(自称)の僕でも、英訳・和訳しづらい単語はある。例えば寿司ネタの「トロ」。よくFatty Tunaと訳されるがこれじゃ「デブマグロ」だから納得がいかない。英語でもToroがベストだろう。

今回のキーワード「Meh(メ)」も訳し難い。「〇〇は好き?」などと聞かれたときにする生ぬるい返事だ。批判するほど興味もなく、「どちらでもいい」というより「どうでもいい」感じ。昔騒ぎになった沢尻エリカさんの「別に」に近いけど、「別に」は3音節。3音節も発するのが面倒なときに便利なのがメだ。


ちなみに、Mehの語源はイディッシュ語など諸説あるが、人気アニメ『ザ・シンプソンズ』で初めてマスメディアに登場して20年もたっていないのに、既にオックスフォード辞典にも加えられ、日常語になっている。言葉の由来って面白いよね?

Meh。

そう、そんな使い方! 便利でしょ? ぜひ日本語に導入しよう。

そのためのいい教材に、今回の風刺画は......ならない。この言葉は普通、映画や料理、セレブなどへの評価を表すもの。「(パックンマックンの)マックンは好きですか?」へのMehは模範解答だ。だが、国民の命、人権、自由や主権などへの重大な脅威にはMehは用いない。無関心じゃ駄目だから。

風刺画で取り上げている、気候変動や銃暴力、人工中絶の制限、LGBTQの権利侵害、そして民主主義的規範の崩壊は全くMehではないはず。だが、世論調査を見ると、これらの問題を重要視するアメリカ人の割合は絶望的に低い。

もちろん、支持政党によって態度は違う。民主党支持者はこれらの問題に敏感だが、共和党支持者は温暖化や銃暴力に関して民主党より関心度が40~50%も低い。まさにMehな状態。

もっと怖いことに、共和党支持者は中絶やLGBTQの権利の制限やトランプ(過去の大統領で将来の独裁者候補)のカムバックに関してはMehではなく、とても前向きだ。つまり風刺画の作者から見て、共和党自体が脅威となっている。

しかし政治疲れしているアメリカ人は、共和党の暴走も含め無関心な人が多い。政党もMehなら、国民もMeh。これじゃ、問題は悪化する一方。一番恐ろしいMehにはMehをだね。

ポイント

POLLING
世論調査

ARE YOU CONCERNED BY HOW FAST THE PLANET IS WARMING?
地球温暖化の進行具合は心配ですか?

ARE YOU UPSET THAT GUNS ARE THE #1 KILLER OF CHILDREN?
子供たちの死因第1位が銃によるものであることを懸念していますか?

ARE YOU ALARMED BY THE ATTACKS ON REPRODUCTIVE FREEDOM AND LGBTQ RIGHTS?
生殖(中絶)の自由、LGBTQの権利が脅かされていることに危機感を感じますか?

ARE YOU BOTHERED THAT TRUMP WANTS TO TURN OUR DEMOCRACY INTO A DICTATORSHIP?
トランプが民主主義を独裁体制に変えたいと思っていることは気がかりですか?

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国大手銀行、高利回り預金商品を削減 利益率への圧

ワールド

米、非欧州19カ国出身者の全移民申請を一時停止

ワールド

中国の検閲当局、不動産市場の「悲観論」投稿取り締ま

ワールド

豪のSNS年齢制限、ユーチューブも「順守」表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story