コラム

差別的な人物を描くのはフィクションでもダメ?(パックン)

2021年04月02日(金)13時40分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

The Cartoonist's Dilemma / ©2021 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<人種、ジェンダーの差別につながる表現は、かつては「普通」だったものまで次々に存在を消されつつある>

黒人の人権を訴えるBlack Lives Matter(BLM)運動。乱射事件も含むアジア系市民への嫌がらせや暴力、ニューヨーク州知事など有力者のセクハラ疑惑。こういった話題が続出するなか、人種やジェンダー関連の差別への警戒心は史上最高水準に達している。特にいま問題視されているのは、差別行為の発端となる差別的な潜在意識。

その潜在意識は生活環境から身に付くと考える専門家が多い。人は、聞く言葉、見る光景、日々繰り返す体験から「普通」を学習する。故に、正しい意識や概念を育むために、バイアスのある芸術や文学、音楽などを正さないといけない。こんな考えから、「普通」だった文化が次々と廃止されている。

衝撃だったのは、アメリカを代表する絵本作家ドクター・スースの6作品が、差別的な描写を含むため出版停止になったこと。僕も大好きなスース作品はキャッチーな韻を踏みつつ、個性の尊重、弱者や環境を守ること、戦争反対など素晴らしいメッセージを伝えるものだ。ほとんどは。だが、この6冊には白人が黒人をむちで打つなどという場面もある。韻を踏みながら人権をも踏みにじる絵本は今や許されないだろう。

芸人として気になるのはお笑いの評価。昔大受けしたものでも、今やると「差別だ!」と、こっぴどくたたかれるネタも多い。僕は何も差別していないのに、いつも隣のアジア人男性にたたかれているけど。

この風刺画が注目するのは、もちろん漫画やアニメだ。登場人物の描き方がステレオタイプを助長するという理由でディズニーが子供向けの配信を停止したアニメ映画もあれば、セクハラ行為が目立つからワーナー・ブラザースが映画の出演を取り消したキャラクターもある。

そこでジレンマとなるのは、差別的な言動で知られる政治家が登場する作品。つまり描き方が問題な架空の人物ではなく、生き方が問題の実物だ。現実を描くだけで差別的になってしまう恐れがある。でも、政治家を取り上げるのが風刺の仕事。漫画から消すのではなく、政界から消すのが正解だろう。

【ポイント】
I GET WHY PEOPLE WANT TO CANCEL RACIST AND SEXIST CARTOON CHARACTERS...

人々が人種・性差別的な漫画やアニメの登場人物を撲滅したいのは理解できる...。

THEY'RE OFFENSIVE AND KEEP US STUCK IN THE PAST!
不快だし、過去の因習にとらわれているものだからね!

BUT DO WE HAVE TO GET RID OF THEM ALL?
でも、全部が全部ダメかな?

PLEASE... CAN'T I JUST KEEP THIS ONE?
これだけは残しちゃダメ?

EDITORIAL CARTOONIST
風刺漫画家

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story