コラム

アメリカの理想に邁進した不屈の闘士、ジョン・ルイスから託された夢の続き(パックン)

2020年08月04日(火)19時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<10代で公民権運動に加わり、逮捕回数は40回以上。暗殺されたキング牧師の後継者として、不公平との闘いに生涯をかけたジョン・ルイス米下院議員の功績>

高祖父母は奴隷。親も奴隷とほぼ変わらない立場の小作人。そんなアラバマ州の貧農に生まれた黒人男性が世界を変えた。

10代の時に公民権運動に加わり、地元で座り込み抗議を始める。学生非暴力調整委員会を創設し委員長として、映画にもなったセルマ行進のリーダーの一人となった。弱冠23歳の時に、ワシントン大行進でキング牧師の「私には夢がある」演説と同じ演壇から演説を行った。そして、キング牧師暗殺以降、後継者としてその夢の実現に長年邁進した。

その男性は先日80歳で死去した米民主党のジョン・ルイス下院議員だ。相変わらず漫画がネタばらししているけどね。

34年間議員を務め、大統領自由勲章も受章したルイスだが、一番目立った瞬間は1965年3月、アラバマ州セルマ市にあるEdmund Pettus Bridgeという橋の上。行進の先頭に立っていたルイスは警察に激しく暴行され、頭蓋骨を骨折しながらも反撃しない。ルイス青年の勇姿がテレビで放送され、体制の残酷さと運動家の決意を象徴するイメージとなった。この日はBloody Sunday「血の日曜日事件」として知られるが、U2の名曲のテーマにも......なっていない。あれは違う血の日曜日。

実は橋の名前になっているエドマンド・ペタスは南北戦争で南軍の司令官を務め、白人至上主義団体KKKの指導者でもあった人物。今はBLM(黒人の命も大事)運動の中で橋の名前を変える動きが高まっている。John Lewis Bridgeへと。

ルイスのモットーはGet in good trouble(よいトラブルを起こせ)だったが、有言実行でしばしば警察と衝突し、40回以上逮捕された。その多くは黒人への対等な投票権を求める運動中。60年代まで続いた不公平な有権者登録制度の廃止はできたが、今も黒人の投票率は低い。しかし、ルイスはアメリカを改善する手段として、ずっと黒人の投票を呼び掛けていた。橋の名前を変えるのもいいが、本当に喜ばせたいなら、ルイス先輩が血と汗で勝ち取った参政権を生かし、後輩の皆さんの票の力でホワイトハウスの表札にある名前を変えることだと思う。

ところでBLM=Black Lives Matterは「黒人の人生に意味がある」とも訳せるが、「全ての人間が対等につくられた」という、独立宣言が掲げた理想へとアメリカを導いたルイスにぴったり当てはまる言葉だ。これほど意味のあった人生はめったにない。ジョン・ルイス先生、安らかにお眠りください。

【ポイント】
GET IN GOOD TROUBLE...AND HELPREDEEM THE SOUL OF AMERICA!
良いトラブルを起こそう...そしてアメリカの魂を回復させるのだ!(血の日曜日事件55周年の今年3月、ルイスは因縁の橋の上で投票を呼び掛けた)

VOTE
投票

<2020年8月11日/18日号掲載>

【関連記事】トランプ大統領就任式ボイコット続出、仕掛け人のジョン・ルイスって誰?
【関連記事】日本人には分からない人種差別問題のマグニチュード

【話題の記事】
秘密警察や記章もない車両が市民をさらう──ここはトランプの独裁国家
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
抗議デモに参加した17歳息子の足元に新品の靴 略奪に加わった可能性が...

2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、司法省にエプスタイン氏と民主党関係者の

ワールド

ロ、25年に滑空弾12万発製造か 射程400キロ延

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

米政権特使、ハマス副代表と近日中に会談へ=米紙
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story