コラム

日本人には分からない人種差別問題のマグニチュード

2020年06月16日(火)14時30分

共和党からも支持を 失いつつあるトラン プは末期症状?DOUG MILLSーTHE NEW YORK TIMESーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<アメリカ人にとっては単なる道徳問題ではない、生存を懸けたゼロサムゲーム>

5月25 日に米ミネソタ州で黒人市民が8分以上も警官に首を膝で押さえ付けられて殺されてから、既に3週間。全米だけでなく日本も含めた世界中の都市で人種差別反対のデモが止まらない。

アメリカでは、これまでも警官に特別粗暴に扱われ、新型コロナ禍では職を失い、狭い家に押し込められ、諸人種の中で最大のコロナ死亡率を示した黒人の不満が一気に爆発した。デモ鎮圧に軍隊投入の構えを見せたトランプ米大統領は、現職や前国防長官、軍元幹部たちから一斉に反発を受け、共和党内部の支持も失いつつある。この動きはアメリカ政治のゲーム・チェンジャー、あるいは政権を替えるものになるだろうか。

人種差別というと日本では「それはいけないことだ。態度を直せ」というお説教で終わりになるが、アメリカでは単なる道徳問題ではない。「いい生活」を目指す、ゼロサムの戦いなのだ。

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1960年代以降、黒人が自らの権利を強く主張し始め、白人学生との共学や大学への優先入学枠を勝ち取り、生活水準は中流にまで向上した。だが、銀行融資でも厳しい審査や高利が付くなどの「差別」が続き、白人中心の高級住宅地にも簡単には住むことができない。デベロッパーが地価を維持するために、黒人などを入れないようにしているからだ。

ただアメリカの白人に、以前の余裕はない。彼ら自身が追い詰められてきている。白人、特に白人男性はこの50年余り、アメリカで最も割を食わされてきた。まず60年代から女性の社会進出が進み、夫婦共稼ぎが普通になった。大学ではアジア系人種の進出が著しく、白人と同等の成績でも黒人のほうが大学入学で優遇された時期があった。加えて、中西部の重工業地帯の白人労働者たちは日本や中国、メキシコなどの輸入品に負けて職を失った。こうしたことに文句を言おうものなら、「おまえは男尊女卑だ、人種差別主義者だ」と、リベラルな白人に上から目線で罵られる。

だがそのリベラルな白人でさえ、最近ではひそかな恐怖心を持っている。2045年頃にはアメリカは完全に多民族社会になり、自分たちは絶対的少数派に転落するとされ、黒人は既に大統領にまでなった。地位とカネ、「いい生活」を失う──。この恐怖がトランプの岩盤支持層を支える。だから筆者の友人は16年、トランプの大統領選勝利後に言ったものだ。「これは少数派に転落する白人の最後のあがきだ」と。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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