コラム

黒人差別抗議デモでNASCARは「南軍旗」を禁止したのに(パックン)

2020年06月26日(金)16時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Clinging to the Stars and Bars / (c)2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<「黒人は白人の所有物」と主張した南軍の象徴であり、不快な気持ちをいだくアメリカ人が多い南軍旗をめぐる対応で明暗が分かれたNASCARとジョージア州>

白人の男が「南軍旗」模様のTシャツを着ている。一部の白人の間で親しまれているこの旗だが、「黒人は白人の所有物だ」と主張し、60万人もの戦没者を生む戦争を起こした南軍の象徴であり、不快な気持ちを抱くアメリカ人は多い。そのため黒人差別への抗議が広がる今、米カーレース最大手のNASCARが遅ればせながら、この旗を会場に持ち込むことを禁止した。

南部のファンが非常に多く、運営側にとっては勇気の要る決断だったが、黒人のドライバーは全員、「とても誇らしい」と絶賛している。実は、その前に黒人ドライバー全員が会場で、デモ隊と同じ「息ができない」という言葉の書かれたTシャツを着て警察の暴力に抗議していた。ちなみに、黒人ドライバー全員の名前がババ・ウォレスだ。はい。「全員」と言っても、1人しかいない。

でも、小さな一歩だがNASCARは前進した。

一方、後退しているのはジョージア州の選挙制度。もちろん、White votes only(白人の票のみ)と露骨には言わないが、この数年の制度改正の結果が事実上そうなっている。

まず、黒人や貧困層の多い地区の投票所を減らした。1カ所に有権者1万6000人を集中させたところもある。その上、新しく導入した投票用機械も、黒人の多い地区でよく故障するようだ。6月9日の大統領選予備選では投票するために7時間も待つ人がいたという。新発売のiPhoneじゃないんだから!

また、数年前にはExact match(完全一致)制度が導入されている。これは選挙登録の際、申込書に載っている情報が税金関係などほかの公的記録と完璧に合わないと認められないというもの。例えば、僕が以前に「パトリック・レイモンド・ハーラン」として運転免許を取ったら、「パトリック・ハーラン」では投票できない。「パックン」はもってのほか。前回、この制度で選挙登録できなかった人の80%が有色人種だったという。

選挙を直接仕切るのは州務長官。最高責任者は州知事。もちろん、住民は文句があったら選挙で2人を交代させればいい。実際に2年前の州知事選が「完全一致制度を導入した白人男性の州務長官vs選挙制度の改善を訴える黒人女性の州議会議員」という夢の対戦カードだった。当選したのは......州務長官。当然だ。その選挙も彼が仕切っていたのだから。

ジョージア州は昔、「南軍旗」をあしらった州旗を使っていたが、2003年に違うデザインの旗に変えた。でも、そろそろ戻すのでは?

【ポイント】
NOT BANNED AT GEORGIA POLLING PLACES
ジョージア州の投票所では禁止されていない

<本誌2020年6月30日号掲載>

【話題の記事】
NASCAR開幕戦「デイトナ500」をトランプ大統領が自ら先導
米シアトルで抗議デモ隊が「自治区」設立を宣言──軍の治安出動はあるか
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ

20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ政府債価格が急伸、マドゥロ氏拘束で債務再

ワールド

情報BOX:ベネズエラの石油産業、膨大な埋蔵量 脆

ビジネス

現代・起亜、26年販売目標は3.2%増 25年販売

ワールド

中国外相「世界の裁判官」認めず、米国のマドゥロ氏拘
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── 韓国拉致被害者家族が見る日韓の絶望的な差
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 6
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    スペイン首相、アメリカのベネズエラ攻撃を「国際法…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story