コラム

スパイ顔負け!中国人留学生によるTOEIC替え玉受験は氷山の一角にすぎない

2025年07月05日(土)19時54分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国人留学生によるTOEIC替え玉受験が摘発されたが、中国でカンニングはとっくに「産業化」されている。そして日本に住む中国人が増えるにつれ、スパイ顔負けの「テクニック」が広がり始めた>

5月中旬、東京で行われた英語の国際テストTOEICで中国人留学生の替え玉受験が摘発されたが、なんと43人が容疑者と同じ住所で申し込んでいた(容疑者は他の受験生に解答を伝えていた)。これに懲りず6月上旬のTOEICでも中国籍受験者10人がカンニングを試みた。TOEICの好成績を日本の大学院受験に利用するのが目的らしい。

中国でカンニングや替え玉受験はとっくに組織的産業になっている。仲介機関に料金を払えば、試験の替え玉だけでなく、入学後の授業の出席や課題・論文の提出など全てを代行してもらえる。2022年に広州市で行われたある通信制大学の期末試験の会場では、受験生2831人中2093人が替え玉だった。


不正行為は自動車学校にも広がっている。一部の自動車学校や運転試験の教官はより多くの生徒を獲得し、不当な利益を得るために「特別サービス」を提供。警察官や公務員に賄賂を渡して試験の難度を下げさせたり、教官自身が替え玉受験をしたり、試験用パソコンに不正なソフトをインストールして、受験者に遠隔で解答を教えている。

これ以外にも公務員試験、大学院入試、外国語検定試験、医師資格試験に加え、中国人にとって最も神聖で公平とされる大学入試(高考)でも不正が横行している。「上流」で試験問題を不正に入手し、「中流」でカンニング機器の調達や製造、受験者を募集、「下流」で替え玉が実際に受験──と、明確な役割分担と緊密な連携の犯罪網が完成している。

機器もハイテク化している。カンニング専用の電子ペンはペン先に赤外線装置が付けられ、英単語を認識して中国語に翻訳できる。解答を受信するカンニング専用定規や、後ろや隣の席の答案をのぞき見るカンニング専用メガネもある。

中国政府は15年から、試験の不正行為に対する法的責任を追及するようになった。24年4月までの試験不正組織罪、試験問題・解答の不正販売・提供罪、替え玉受験罪などの摘発件数は4007件で、1万1146人が有罪判決を受けた。

来日する中国人が増えるにつれ、この犯罪網が日本にも少しずつ広がっている。TOEICの事件は氷山の一角にすぎない。このことに日本人はそろそろ気付いたほうがいい。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦合意巡り13日に国際首脳会合、トランプ氏ら

ワールド

北朝鮮が軍事パレード、新型ICBM公開 金氏は海外

ワールド

トランプ氏、心臓年齢は実年齢マイナス14歳 健康状

ワールド

米政府、大規模な人員削減開始 政府機関閉鎖10日目
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決」が話題に 「上品さはお金で買えない」とネット冷ややか
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収された1兆円超は誰のもの? 中国は「返還」要求
  • 4
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 5
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 6
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 7
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 8
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 9
    【クイズ】ノーベル賞を「最年少で」受賞したのは誰?
  • 10
    サウジの伝統食「デーツ」がスーパーフードとして再…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 7
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 8
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 8
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story