コラム

テレビに「反戦」女性が乱入...戦争中のロシアは、平時の中国より「自由」だった

2022年03月29日(火)17時14分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
ロシア反戦メッセージ(風刺画)

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<ロシア国営テレビの番組で「反戦メッセージ」を掲げた女性が拘束されたが、中国のテレビにはそもそもこうした「事件」が起こらない仕組みがある>

ロシア国営テレビの女性スタッフが現地時間の3月14日夜、生放送中のニュース番組に「闖入」して、番組キャスターの背後で、「戦争反対」「プロパガンダを信じるな」などとロシア語と英語で書かれたプラカードを掲げ、ウクライナ侵攻に抗議した。女性はその直後に拘束されたが、その動画はあっという間にネットで全世界へ拡散した。

このニュースに最も衝撃を受けたのは、ネットの「壁越え」で国外の記事に関心を持つ中国人たちだ。女性はその後モスクワ地方裁判所で3万ルーブル(約3万6000円)の罰金を命じられただけで保釈された。

「戦争中のロシアでも、言論の自由や司法の公正などの点で中国よりずっとマシだ」と、ある中国人知識人は言う。もし同じ事件が中国で起きたら、その女性スタッフは即拘束・蒸発し、テレビ局の責任者も番組の担当者も全て厳しい処分をされるはずだ。

テニス選手の彭帥(ポン・シュアイ)を見れば分かる。彼女はネットで中国共産党の上層部による性的被害を告白しただけだが、今も「失踪」したままだ。

外国のネットを見られない一般中国人は、今回のウクライナ戦争の真相を知らない。彼らは中国官製メディアが伝えるロシア側のニュースを信じて、侵攻を「ウクライナのナチス」をやっつける正義の戦いだと思っている。

オデッサにとどまるブロガー・王吉賢(ワン・チーシエン)は、現地から戦争の実態を中国SNS上に投稿したが、全てのアカウントを一斉に削除された。「中立」を称する中国政府は、なぜかウクライナ支持の投稿をどんどん削除していく。

それは政府内部のウクライナ支持者たちも例外ではない。中国国務院参事室公共政策研究センター副理事長の胡偉(フー・ウエイ)はネットで「中国はさっさとプーチンと手を切るべき」と最高指導者たちに進言したが、もうこの文章を読むことはできない。

ロシア人は中国人より自由だ。反戦、反プーチンの声が聞こえるのが何よりの証拠だ。そもそも中国のニュース番組でスタッフが「反戦」プラカードを掲げる様子が放送されることはない。「事故」に備えて、何秒か遅れで放送されているからだ。

ポイント

No War/Остановите войну не верьте пропаганде здесь вам врут/Russians against war
戦争反対/戦争をやめて/プロパガンダを信じないで/あなたはだまされている/戦争に反対するロシア人たちより

王吉賢
北京出身の36歳。アメリカのAIテクノロジー企業に勤める技術者で、2021年にウクライナ移住。中国SNSでロシアの侵攻を非難したが、「国の裏切者」呼ばわりされた。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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