コラム

厳戒ロックダウンで感染を封じ込める中国は「コロナの優等生」なのか

2021年02月13日(土)15時45分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's Lockdown Redux / (c)2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<鉄の掟で感染対策を徹底する中国の感染者数は、西側諸国と比べれば確かに少ないが......>

2020年の1月前後に新型コロナウイルスの感染が中国・武漢で爆発したとき、まさか1年後に全世界の感染者数が1億人以上の恐ろしいパンデミックになるとは誰も想定していなかった。武漢市民が遭遇した突然のロックダウン(都市封鎖)のパニックと恐怖が1年後の今年1月、通化という中国北東部の街で再現されることも誰も予想できなかっただろう。

吉林省南部に位置する人口約210万人の通化市は、感染者の発生で1月18日に突然ロックダウンした。住民の外出を禁止するため、住宅のドアに封印が貼られ、外では警備員が住民たちを厳しく監視する。買い物どころか、ごみ捨てにも出られない。

地元政府の封鎖の手際は素早く見事だったが、食料提供はその真逆。封鎖生活が約1週間続くなか、食料不足が深刻化し、病気の老人や育ち盛りの子供はもちろん、健康な大人も我慢できなくなった。

限界に達した通化市民は、微博(ウェイボー)などのSNSを利用して境遇を訴え救助を求めたが、シェア・拡散する人は少ない。中国政府が認めていないニュースを勝手に広めると、武漢の李文亮(リー・ウェンリアン)医師のようにデマ拡散犯として処分されるからだ。

仕方ないので、通化市民らは共産党機関紙「人民日報」の微博アカウントに繰り返し2000件以上書き込みをして、ようやくこの政府メディアが注目するようになった。

新型コロナの最中、中国政府は中国の特色ある社会主義の優越性を世界にアピールするため、「厳防死控(感染を厳しく防止し必死に抑える)」を唱えつつ、各地方政府に「零感染(感染者ゼロ)」を厳しく要求した。

できなかったら責任を追及され、免職される。鉄の命令で、地方官僚たちは必死になった。通化の地元官僚も同様だ。

「厳防死控」の成果なのか、いま中国の感染者数は西側諸国と比べて確かに少ない。一部の中国研究者は「中国的特色」をたたえ、民主や自由という価値観に疑いを持つようになった。

しかし、もし感染者数によって国家体制の優越性を決めるのなら、世界で最も優れた国は北朝鮮ではないか。この国は今でも「感染者ゼロ」を称しているのだから。

【ポイント】
居家隔离 禁止出入/(封)禁止出入

自宅隔離 出入り禁止/(封鎖中)出入り禁止

李文亮
武漢中央病院の眼科医師。2019年12月に新たな感染症の発生をいち早くSNSで発信。公安当局からデマを拡散したと処分を受けた。その後、病院で勤務を続けるなか、新型コロナウイルスに感染し、2月に死去。33歳だった。3月、感染抑制に模範的な役割を果たしたと中国政府が表彰した。

<本誌2021年2月16日号掲載>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、日本のロシア産エネ輸入停止を期待=

ビジネス

機械受注8月は前月比0.9%減、2カ月連続マイナス

ワールド

米国防総省から記者退去、取材規制に署名拒否

ワールド

加藤財務相、米財務長官と会談 為替に関する共同声明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story