コラム

中国共産党がサンタを打倒する理由

2018年01月10日(水)11時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

©2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<もはや宗教行事とも言えないクリスマスを祝うイベントを禁止するのは、自分たちの文化や伝統に対する自信のなさの表れ>

読者の皆様、新年好(新年おめでとう)!

多くの中国人にとっては旧暦の春節が新しい1年のスタート。太陽暦の1月1日はそれほど大きな記念日ではないが、それでも家族でレストランに行くなど、それなりにこの「洋節(西洋イベント)」を楽しむ。

現在の中国人にとって、一番大きな西洋イベントは「聖誕節(クリスマス)」だ。キリスト教徒でもないのに、街に繰り出して日本人顔負けのバカ騒ぎをする。

この動きにいら立つわが故郷・湖南省の共産党組織が昨年末、「洋節を祝うな!」と幹部の党員に指示。それだけでなく、クリスマスパーティーにこっそり参加した幹部の名前を通報するタレこみ電話を設置した。各地で大学が学生に「クリスマスにおけるバカ騒ぎ禁止令」を出すケースも相次いだ。

トップの習近平(シー・チンピン)が直接の指示を出したわけではなく、地方組織や大学がそろって忖度したらしい。「震源」は、17年1月に国務院が発した「中国の伝統的な祝日をもっと盛り上げよ」という方針のようだ。

さらに中国の熱狂的な毛沢東支持者は、「中国人はクリスマスでなく毛沢東の誕生日を祝え、毛沢東が中国の聖人だ!」と街頭で叫んだ。中国以外では知られていないが、共産中国を建国した毛の誕生日はクリスマスの翌日、12月26日だ。

そもそも共産党員は宗教を信じることを禁止されている。だからといって、もはや宗教行事と言えないバカ騒ぎを禁止し、やたら「中国伝統の祝日押し」をするのは、逆に自分たちの文化や伝統に対する自信のなさの表れでしかない。

「清く正しい」共産主義を信じたまま死んだ毛沢東だが、今の中国にはびこっているのはカネだけが正義の拝金教だ。昨年暮れに私がプレゼンテーターとして参加したマカオ国際映画祭について、ある有名中国人女優が「賞の受賞者は初めから決まっている!」とブチ切れる騒ぎが起きた。今の中国で栄誉を勝ち取るのに必要なのはコネ、そしてカネだ。

毛沢東がもし「聖誕老人(サンタクロース)」としてキャッシュレス化が進む今の中国に復活したら......配るのは配給券でも現金でもなく、支付宝(アリペイ)の紅包かもしれない。

【ポイント】
支付宝(アリペイ)

支付宝はアリババが始めたモバイル決済サービス。中国を一気にキャッシュレス社会に変えた。

紅包(ホンパオ)
ご祝儀の意味の中国語。支付宝の紅包システムを利用して、ユーザー同士がキャッシュレスな祝儀を贈り合っている。

本誌2018年1月16日号[最新号]掲載


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産

ビジネス

焦点:米国市場、FOMC後も動揺続く恐れ 指標の注
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story