コラム

ウクライナ戦争1年、西側メディアが伝えない「それでもロシアが戦争をやめない訳」

2023年02月21日(火)17時50分

反体制の立場を鮮明にする勢力はほぼ全て国外に脱出し、国内で反プーチン蜂起が起きる可能性は完全に消え去った。ロシア国内にとどまっている反プーチン派に対する締め付けも強まっている。プーチンに反対する人物を投獄しやすくする法律が相次いで成立し、本格的な独立系メディアも完全に閉鎖されたためだ。

ロシア人の半分以上は、行政府の権限が拡大していることを問題とは感じていない。というより、それを支持している可能性が高い。

戦争に反対してロシアを離れたとみられるロシア人は膨大な数に上るが、国外に脱出した人々が移住先で大規模な反戦デモを行った例はない。彼らはプーチンの愚かな戦争への嫌悪を公言するが、ロシア領から何千キロも離れた所にいても、戦争反対の大きな声を上げようとしない。

そしてもちろん、ロシア国内では今や反対意見は存在しないも同然だ。反体制派が厳しい法規制を受けているのは確かだが、ロシアの同盟国イランの国内弾圧はその数倍の厳しさだろう。それでもイランでは、反政府集会が盛んに行われている。

ロシア人の元教え子や友人を見ていると、戦争が日常化しすぎて鈍感になり、ほぼ忘れてしまっていることがよく分かる。私の妻はウクライナのドンバス地方で育ち、戦争が始まるまでロシアに住んでいたが、彼女の友人のほとんどは侵攻開始後すぐにトルコやアルメニア、セルビアに脱出した。だが今は全員がロシアに戻り、侵攻前とほぼ変わらない生活を送っている。

マクドナルドやネットフリックス、フェイスブックを利用できない日常生活を喜び、楽しんでいると語る者も一部にはいる。ロシア人は自分たちの超人的な適応能力を誇りに思っているのだ。

世論調査の数字もそれを裏付ける。人々の不安感は2022年に過去最高に達したが、「部分動員令」の発表後すぐに通常レベルに戻った。

ある有名なロシアのアナリストはこう言った。「戦争の責任を取ろうとする者はほとんどいない。私は、旧ソ連時代に農作物を収穫するために集団農場に送り込まれた人々の行動を連想する。ジャガイモを掘るのが好きな学生はいなかったが、抵抗したり抗議したりすれば、社会から完全に排除される。だから何はともあれ農作業をやった。今も同じだ」

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

逮捕475人で大半が韓国籍、米で建設中の現代自工場

ワールド

FRB議長候補、ハセット・ウォーシュ・ウォーラーの

ワールド

アングル:雇用激減するメキシコ国境の町、トランプ関

ビジネス

米国株式市場=小幅安、景気先行き懸念が重し 利下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 6
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 9
    ハイカーグループに向かってクマ猛ダッシュ、砂塵舞…
  • 10
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨッ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にす…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story