コラム

「時間はロシアの味方」の意味──苦戦と屈辱が続くも「プーチンの戦争」は今年も終わらない

2023年01月27日(金)13時00分

230124p18_UKH_05.jpg

「部分動員」で徴兵され、ロシア中南部オムスクの鉄道駅で列車に乗り込む若者たち ALEXEY MALGAVKOーREUTERS

言語と文化を傷つける行為

元教え子のロシア人はSNSへの投稿で、ロシア軍は少数民族やイスラム教徒の兵士が多く、戦死者の割合も高いので、人口構造の補正ができていると主張した。だからロシア人が今後20年間で支配的地位から転落する可能性は低いというのだ。

プーチンの精神分析を行う識者が最もよく語る「驚き」の1つは、明らかに負けているのに、どうして自信満々なのかというものだ。だが、本当に負けているのだろうか。

実は時間はロシアの味方だ。23年中にウクライナが決定的勝利を収めなければ、24年には欧米の国々が選挙の年を迎える。そこで現職以外が勝てば、ウクライナが戦争を継続する能力の見通しが一変する可能性もある。欧米の全面的援助がなければ、ウクライナは武器も食料も自力では調達困難だ。次期米大統領を当てる賭けサイトでは、ジョー・バイデン現大統領の支持率は32%にすぎない。

だが、戦争賛成派のロシアの友人にも痛恨の出来事が1つある。たとえ軍事的に勝利しても、文化的な威信が大きく傷つくことだ。私は彼に、あるヨーロッパの空港で私の幼い娘がロシア語を話したら、周囲の視線が集中したという話を伝えた。生まれたばかりの妹と遊ぶ天使のような2歳児が、ロシア語を話しただけで刺すような視線を向けられたのだ。

14年にウクライナからクリミアを奪ったプーチンは、併合を正当化する理由の1つとしてロシア語話者とロシア文化の保護を強調した。だが、今後はウクライナ語が苦手なロシア語話者でさえ、たとえコミュニケーションがうまく取れなくてもウクライナ語だけを使うようになりそうだ。

エストニアやラトビアでも同様の動きが起きている。ラトビアは最近、20のロシア語テレビ局の放送免許を取り消し、ナチスに対する勝利を祝う首都の記念塔を取り壊した。

23年のプーチンは大方の予想を裏切り、想定以上の戦争目的を達成するかもしれない。だがウクライナでさらなる軍事的成功を収めても、未来の歴史書がロシアの言語と文化に対するプーチンの貢献を評価することはなさそうだ。

(筆者は元ロシア国家経済・公共政策アカデミー特別教授で、妻がウクライナにルーツを持つロシア人)

20240528issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月28日号(5月21日発売)は「スマホ・アプリ健康術」特集。健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げの必要性でコンセンサス高まる=伊中銀

ビジネス

G7、ロシア凍結資産活用は首脳会議で判断 中国の過

ワールド

アングル:熱波から命を守る「最高酷暑責任者」、世界

ワールド

アングル:ロシア人数万人がトルコ脱出、背景に政策見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシア装甲車2台...同時に地雷を踏んだ瞬間をウクライナが公開

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 10

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story