コラム

なぜアメリカの中絶反対派は中絶に反対するのか

2022年07月05日(火)14時16分

6月24日、ワシントンの連邦最高裁前に集まった中絶反対派 ANDREW LICHTENSTEINーCORBIS/GETTY IMAGES

<カトリックの教えと思われがちだが、彼らは死刑の存続や福祉の縮小などイエスの教えに反する主張を繰り広げる>

米連邦最高裁判所が6月24日、女性が人工妊娠中絶を受ける権利を認めた1973年の最高裁判決を覆す判断を下し、国内外に大きな衝撃が走った。

表面的には、連邦最高裁のカトリック教徒の判事たち(とカトリック系の教育を受けた判事)が自分たちの宗教的信条を判断に反映させたように見える。定員9人の連邦最高裁は何十年にもわたり、プロテスタント7人、カトリック1人、ユダヤ教徒1人というメンバーで構成されてきたが、現在はカトリック教徒の割合が大きくなっている。

今回、中絶の権利を制限することに賛成した6人の判事は全て、広い意味でカトリック系の人たちだ(5人は敬虔なカトリック教徒。もう1人は現在カトリック教徒ではないが、カトリック教徒の家庭で育ち、カトリック系の教育機関で学んだ人物だ)。

しかし、今回の判決が生まれた最大の要因を判事たちの宗派に求める考え方は、見当違いと言わざるを得ない。

私は判決の後ほどなく、大学のアメリカ政治入門の授業で学生たちの意見を尋ねた。私が所属しているジョージタウン大学は、アメリカ最古のカトリック系大学。私の授業の受講生の半分以上はカトリック教徒だ。

しかし、多くの学生は判決を厳しく批判した。世論調査の結果は一様でないが、概してカトリック教徒の半分以上は、あらゆる状況で中絶を合法とすべきだと考えている。その割合は、国民全体とほぼ変わらないか、わずかに少ない程度だ。

私はもともと聖職者志望で、大学の修士課程で神学を専攻したこともある。その立場から言うと、「生命尊重」という大義名分の下で中絶反対を唱える保守派の多くは、死刑の存続、移民の厳しい取り締まり、福祉の縮小など、カトリックの教えに反する主張をしている。

今回の判決で反対意見を執筆した3人のリベラル派判事は、判事の多数意見を辛辣に批判し、あからさまな政治的行動だと指摘した。その指摘は当たっている。

この裁判では、妊娠15週以降の中絶を原則として禁止するミシシッピ州法の合憲性が争われた。多数意見では、憲法は中絶の権利を保障しておらず、それぞれの州が中絶を規制する権限を持つとの判断を示した。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

富裕国の開発援助が後退、米は2つ落として28位=シ

ビジネス

金利正常化の時期、経済・物価情勢見ながら判断=小枝

ビジネス

10月コンビニ売上高は8カ月連続増、気温低下・販促

ビジネス

首都圏マンション、10月発売戸数28.2%減 23
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story