コラム

写真がゴミのように消費され、東洋が異質なものとして見られる時代に

2018年09月28日(金)12時10分

とはいえ、彼のインスタグラムの作品には、潜在的とはいえ、同時に2つの写真哲学が大きく存在している。1つは、コンサンプション(消費)だ。現在のソーシャルメディアの中で写真が凄まじいスピードでゴミのように消費されることである。その中で大半の視聴者は、見ることは強制されても、意味など考えないようになってきており、コラックはそれに危機感を覚えているのである。

上述した彼が属するMAHZENという写真集団は、そうした写真消費文化に対し、写真の持つ意味や写真の裏にあるリアリティを伝えようとして作られたものだ。実際、インスタグラムにおいても、彼の作品を全体的に眺めると、そのダイアリー的な意図に反してそうしたメッセージ性も無意識に現れているのである。

もう1つの、彼の作品に潜在的に流れている(写真)哲学は、オリエンタリズムだ。正確に記せば、オリエンタリズムへの反論、あるいは抗議である。

オリエンタリズムとは、西洋から東洋、とりわけ中近東・中東と呼ばれる地域に対して、その文化を異質なものとして見ることだ。芸術的には憧れや畏敬の念も存在するが、同時に、西洋中心的なステレオタイプの価値観や差別概念がしばしば織り込まれている。

トルコは長い歴史の中で、そうしたオリエンタリズムに翻弄され続けてきた。現在のトルコは、コラックの言葉を借りれば、あまりにも社会的問題に満ち溢れている。にもかかわらず、相変わらずトルコは、素朴でエキゾチックな国と見なされているのである。

こうした現実と幻想が奏でる矛盾を、あるいはその交錯を、コラックはダイアリー的なインスタグラムで、これまた無意識に表現しているのだ。それがある種の謎を秘めながら、時に効果的なスパイスになっているのである。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Serkan Çolak @serkanncolak

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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