コラム

手術されるインターセックスの子供たち トップモデルが壮絶な告白

2018年06月07日(木)16時32分

彼女の子供時代の夏休みは、何度も「適正な女性化」への手術を施されることに費やされた。10歳のときには精巣を取り去られる。無論、そうしたことは彼女に肉体的にも、精神的にもトラウマを残すことになる。精巣摘出手術のとき、いや正確に言えばその間際に、医療インターンたちによって生体実験のごとく観察され、組織的にチェックされたことをオディール自身はっきりと覚えているのである。またホルモン投与も、彼女の身体および精神面に"衝突"をつくり出していた。

しかし、医師はオディールの両親に対し、極めて特例的なケースと話すだけだった。オディール自身には、彼女のインターセックスのアイデンティティについて何も説明されなかったのである。最も多感な時期に、自分の中で何かが違うと分かっていても、1人で悩むしかなかった。

ただ、17歳のときにある種の幸運が訪れる。オランダのティーン向け雑誌で、子供を産めないインターセックスのティーンの特集を目に留め、自分自身がインターセックスであること、また、そうした人は自分1人だけではないことを明確に認識しだしたのだ。

さらに同時期、ファッションモデルにスカウトされ、美貌が最優先されるキャリアを通して、インターセックスにおける女性としてのアイデンティティにも自信を持つようになっていく。オディール自身、男性よりも女性としてのアイデンティティがはるかに強く、18歳のときに膣を広げる女性器形成手術を行っている。

その後、オディールが完全にカミングアウトするまで10年以上を要したとはいえ、時代はポスト・エイズの90年代以上に凄まじい勢いで、ジェンダーとセクシュアリティのアイデンティティについて変わりはじめていた。

2014年には、WHO(世界保健機関)と国連の複数の団体が、トランスジェンダーとインターセックスの人々に対する強制的な断種手術を非難する声明を出し、以後、その意味を理解できない子供への手術は拷問であるとも声を上げはじめたのである。また、2017年にはドイツの憲法裁判所が、大半のインターセックスの人々に当てはまる「第三の性」の存在を認めるよう国に命じた。

オディール自身、手術の必要性を完全に否定しているわけでない。それが本当にすぐさま必要でない限り、幼い子供時代には行うべきではないと訴えているだけだ。子供が理解し、本人から施術同意を得ることは実質上不可能であるからだし、手術そのものが再び元に戻すことができない身体にしてしまうからである。

また、通常とは違うホルモン分泌の影響で、癌になるリスクが高まるとも言われている。オディール自身もそれが大きな理由で手術をしたが、その根拠はまだ科学的に曖昧だ。たとえ癌のリスクゆえに手術をするのだとしても、近年は、第二次性徴期が終わってからでも遅くはないと認識されるようになってきている。むしろ手術することで、生理機能が完全に停止し、骨粗鬆症などを誘発することもある。

にもかかわらず、アメリカ、日本も含む世界の大半の国々の医療機構は、性別適合化のために、インターセックスの子供たちの早期手術を奨励しているのである。それは、多様性と少数派の人権を無視した、ステレオタイプの男と女の社会概念だけで割り切ろうとする、"二元論(バイナリー)社会"が作ったタブーの押し付けだ。

オディールは言う。「二元論なんてクソ食らえ。そんなもの終わってる。私たちをズタズタに切り裂くだけだから。本来、そんなものに関係なく、私たちはみんな同じなんだから」

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Hanne Gaby Odiele @hannegabysees

Hanne Gaby Odieleさん(@hannegabysees)がシェアした投稿 -

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド4月自動車販売、大手4社まだら模様 景気減速

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む 市場予想下回る

ワールド

米、中国・香港からの小口輸入品免税撤廃 混乱懸念も

ワールド

アングル:米とウクライナの資源協定、収益化は10年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story