コラム

「スキンヘッドは本来、ヘイト(憎しみ)の象徴ではない」

2017年09月22日(金)14時07分

こうした作風をつくり出すことは容易ではない。スキンヘッドやModは、写真家にとってある種人気のあるモチーフだが、大半は表面的な観察・紹介写真になりがちだ。ハーベイがこの作風をつくり出せたことには、彼自身の青春時代の経験が大きく寄与しているのかもしれない。

ハーベイは高校時代に中退を経験し、その頃はミュージックバンドに没頭していた。そして、その彼を取り巻いていたサブカルチャーそのものがMod的なものだった。スキンヘッドも、イギリスではModの兄弟分として扱われている。言ってみれば、彼自身が彼の被写体であるアウトサイダー・コミュニティーの一員だったのである。

加えて、その後ウェールズの大学で写真を学んだが、彼の基本的な撮影方法は、可能な限り被写体と生活を共にして撮影するというもの。こうした点が、被写体特有の緊張感と合い重なって、作品に不思議な心地よさと大きな奥行きを与えているのかもしれない。

とはいえ、1つ、ネガティブに引っかかる点もある。スキンヘッドは現在、ヘイト(憎しみ)の象徴にもなっているのだ。それをセンセーショナルに使っている気もしたのである。

だが、それについてハーベイはこう言う。スキンズ(スキンヘッドの愛称)はもともと、労働者階級のプライドから生まれたサブカルチャーの1つ。それが1980年代以降、白人至上主義の極右、あるいは逆に左翼の政治団体に、プロパガンダ的に大きく組み入れられてきたのだと。特に近年は人種差別団体に組み入れられている。

そのため、多くのスキンズはそのスタイルを放棄し始めている。それでも相変わらず、黒人のスキンズも含め、本来のプライドとしてスキンズになっている者も多いという。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Owen Harvey @ojharv

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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