コラム

黒人、日系人、アメリカ人...アイデンティティーの葛藤の匂い

2017年04月26日(水)13時00分

つまりはこういうことだ。どこか黒人的な匂いがするのに、いま流行りの多くの黒人写真家に見られがちなポリティカル・コレクト、あるいは黒人文化を前面に押し出すような匂いではない。アメリカ人でありながら、ストレートな白人アメリカ人の写真でもない。むしろ、ヨーロッパ的なムードを兼ね添えている。

そうしたものに、かつての日本的な何かと、加えてスミス自身の性格か、恩師であったというイギリスの写真家ブレット・ウォーカーの影響か、ユーモアの要素までが絡み合い、衝突し合っているのである。

これは彼女の写真の大きな魅力だ。アイデンティティーの危うさと作りものでない不協和音が、生のエネルギーを、それもステレオタイプ的な尖ったエネルギーではなく、むしろ柔らかな匂いのするエネルギーを解き放っているのである。

【参考記事】仏教的かキリスト教的か、イスラム教的か、混乱させる写真
【参考記事】世界が共感するヌード写真家レン・ハン、突然の死を悼む

そして彼女の写真は、すでに触れたように彼女だけを語っているのではない。スミスの作品には、彼女と同じようなミックス・アイデンティティーを持った人々の、この時代に生きる不安や思いが無意識にしろ現れているのである。それが必然と作品に大きな奥行きを与えている。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Chieska Fortune Smith @chieskafortunesmith

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪のSNS年齢制限、「反対だが順守する」 メタなど

ワールド

ベセント氏、健全な金融政策策定が重要な役割 日米財

ビジネス

メタプラネット、発行済株式の13.13%・750億

ワールド

中国、プラ・繊維系石化製品の過剰生産能力解消へ会合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story