コラム

黒人、日系人、アメリカ人...アイデンティティーの葛藤の匂い

2017年04月26日(水)13時00分

From Chieska Fortune Smith @chieskafortunesmith

<ジャパニーズ・ブラック・アメリカンの写真家、チエスカ・フォーチュン・スミス。彼女の写真は、私が出会ってきた30代前後の日系2世たちのイメージに似ている>

今回取り上げる写真家は、アメリカ人のチエスカ・フォーチュン・スミス。彼女の作品を初めて目にしたとき、不思議な感じがした。すごく荒削りなのに、作品がどこかちぐはくで首尾一貫性がないのに、得体の知れない、まとわりつくような魅力が放たれていた。同時に親しみやすさも漂っていた。

それはここ数年、しばしば偶然に出会ってきた、30代前後の日系2世たちが持っていたイメージに似ていた。彼らはフレンドリーで自信に満ちていたが、同時にどこか不安の中に存在していた。独断と偏見をもって言えば、彼ら自身のアイデンティティー所以だった。

アメリカ生まれアメリカ育ちでありながら、完全なアメリカ人にはどこかなりきれない。そんなアイデンティティー喪失症候群的な要素を持っていた。それも一昔前のものではなく、この新しい時代、ポスト・グローバリゼーションの、なぜかナショナリズムに寄り始めた時代に特有のアイデンティティー喪失症候群。それが、多かれ少なかれ彼らに影響していたのである。

実際スミスは、日本人を母に持つジャパニーズ・ブラック・アメリカンだ。今年39歳になる。大学まではアメリカで育ったが、その後は一時日本で生活し、以後はロンドンで暮らしている。

メールでのやりとりの中で、彼女はこう答えてくれた。「写真を通して、自分自身を(自分が何者であるかを)探している......写真は自らと外界とをつなげる乗り物だ」。写真はまた、そうした役割を担ってくれる"薬"でもあるのだという。

【参考記事】このシンプルさの中に、日系人のアイデンティティーが息づく

無論、スミスがどこまで自らのアイデンティティーに葛藤しているのか、あるいはしていないのかは簡単には推し量れない。だが、作品の中にミックス・アイデンティティーの葛藤的要素は確実に現れている。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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