コラム

ハイチで生死に関わる経験をしたベテラン写真家の「架空」プロジェクト

2017年01月18日(水)11時40分

 スティーバーが30年以上関わってしまったというハイチは、彼女にとってある種、生涯の伴侶以上の存在になった。ハイチが名声と生死に関わる体験を彼女に与えたというだけではない。彼女がストリートから救出しようとしたウォルデックという少年は、スティーバーや他のジャーナリストに囲まれながら生活するようになったため、自らを特別視し始め、結局、義務教育もまともに終わらせることができずドラッグに溺れるようになってしまった。スティーバーはそれを自分のせいだと責め続けていたのである。

 その上ハイチは、数年ごとに何か政治的、あるいは自然災害的な危機が起こる。そのたびにアメリカをはじめとする国際社会のメンバーから多大な復興援助が行われる。だが、良くなるどころか――ハイチのみならず国際社会の腐敗のためか――そのたびにハイチの生活状況や治安は悪化していっているのである。スティーバーはその悲しすぎる現実を誰よりも痛感してきた。

 加えて、母1人娘1人の環境で育ってきたスティーバーの母親は、亡くなる前の8年ほどは認知症で苦しんでいた。2人の深い愛情の絆さえも忘却の中へと消えていかなければならなかった。こうした様々な経験と現在も情熱を維持し続けられるキャラクター的な才能が重なって、ハイチのブードゥー教の儀式のように不可思議な魅力と斬新性を持ったプロジェクトが生まれたのである。

 ちなみに、最初の4枚は、その"The Secret Garden of Lily LaPalma"シリーズだが、最後の写真(下)は、スティーバーが自らのセラピーの一貫として認知症を患った母親を撮影したシリーズ"Rites of Passage"の1枚である。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Maggie Steber @maggiesteber

Day One of #b&wchallenge. I am joining friend & colleague Nubar Alexanian in this week's #b&wchallenge. I'll be posting on both Instagram & Facebook. I'm also posting at the invite of @mariearago @robin_schwartz @thuyvigates & thank them for their hearty invites. This first photograph is of my mother Madje Steber sleeping one afternoon in her room at the assisted living facility where she resided for 7 years. My mother was on the sad voyage of memory loss and as her only child I spent days with her, soaking up all of her I could, no matter the stages of paranoia, anger, depression. There were sweet days too. Madje was half Cherokee and looks it to me in this photograph. She is so beautiful, her white skirt spread out in the last rays of a sunny Florida afternoon. I used photography to help me get through Madje's dementia and in the end, though I never intended to share this work, I received a gift of discovery of my mother and it was a story to share. I made a 5-minute narrated slide show for #aarp and @aarpphoto called Madje Has Dementia. Brian Storm @mediastorm saw the piece and asked to do something more. MediaStorm produced "Rite of Passage" about Madje and me because our stories were one. I receive emails from many people who have seen the piece telling me how much it meant to them. That's why we tell stories, to share our experiences, to make things better, to change things. You can the whole project on my website www.maggiesteber.com. Photo by Maggie Steber. #b&wchallenge #blackandwhite #mother #mediastorm #aarp @natgeo @NGCreative @reduxpictures @www.maggiesteber.com

Maggie Steberさん(@maggiesteber)が投稿した写真 -

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story