コラム

新聞社の元・報道写真家がSNS時代に伝える「写真を超えた何か」

2016年08月30日(火)10時54分

Geometry is the language of time. Khalid Masood #tiny_collective

Richard Koci Hernandezさん(@koci)が投稿した写真 -

 加えて、キャプション欄にはほぼ常に、著名人の引用が付け足されている。それはコッチの写真と相重なって、静的か動的かを問わず、よりエモーショナルな相乗効果を生み出している。

 とはいえ、テクニックを駆使し、自らのパーソナルな感情をも追い求めているその作品は、彼のキャリアを知っている者にとっては驚きだろう。なぜならコッチは、過去15年以上もサンホセ・マーキュリー・ニューズという新聞社で、スポーツや日々の事件の決定的瞬間をカラーで撮影する典型的なフォトジャーナリストとして働いてきたからだ。

【参考記事】世界報道写真入賞作「ささやくクジラたち」を撮った人類学者

 だが彼自身には、過去と現在の間に葛藤はない。人間は年齢とともに成長する、それに伴って写真が変わっていくのは当たり前だという。また、現在の彼の写真の基盤はストレートに写真を撮る新聞社時代に築かれた。加えて、当時からコッチは、クラシックな白黒写真のストリートフォトグラフィーで名を馳せたアンリ・カルティエ=ブレッソン、ヘレン・レヴィット、ウィリアム・クラインらを尊敬し、プライヴェートでは、自らもフィルムでストリートフォトを撮影していたという。

 SNS時代のフォトジャーナリズムやフォトドキュメンタリーについても、彼はこう話す。SNSという大きなうねりがある今、写真にもそれを取り入れるべきだ――。コッチ自身、編集者やクライアントに恵まれた一面はあったにせよ、SNSを取り入れたからこそ幸運をつかめたという。マグナムのマット・ブラックやデビッド・アラン・ハービーも、SNSを巧みに利用し、それが2人のスタイルや写真そのものを、より個性的に、より力強いものにしていると、コッチは言う。

 大切なことは、SNSやテクノロジーがどう発展していこうと、自らのヴィジョン、情熱、そのクリエィティヴ性を信じることだ。そして、最も大切なことは昔も今も変わらず、決定的瞬間を頭ではなくハートで撮ることだ、と彼は締めくくった。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Richard Koci Hernandez @koci

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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