コラム

五中全会、成長優先で後回しになる国有企業改革

2015年11月06日(金)17時15分

 2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)以降、中国は改革深化を前面に掲げ、持続的安定成長との両立を図ってきました。少なくとも2014年は、下支えの分野をインフラや農業関連など中国経済の弱点や、新世代情報技術、新エネルギーをはじめとする戦略的新興産業などに限定し、産業構造の高度化や成長の質的向上を目指すという明確な政策意図を持った景気下支え策が実施されていました。

 しかし、2015年の政府成長率目標である7%前後の達成に黄色信号が灯りはじめると、「改革深化」は脇に置かれ、「成長維持」に政策の重点が大きくシフトしています。

 例えば、2015年5月には2015年に返済期限を迎える地方政府関連の債務のほぼ全てを中長期・低金利の地方債に置き換えることが決定されました。リーマン・ショックを受けて2008年11月に発動された4兆元の景気対策で膨張した地方政府関連債務の抜本的な処理、具体的には地方政府融資平台と呼ばれる中国版第三セクターの債務圧縮を行うのではなく、問題を取り敢えずは先送りにしたのです。今年返済すべき借金を返さなくて良いのですから、一時的にせよ地方政府プロジェクト・企業の資金繰りは大きく改善しますが、後々に禍根を残すことになりかねません。

 改革志向の低下は、国有企業改革の意欲低下に既に現れているのかもしれません。私は、来年から始まる第13次5ヵ年計画では、国有企業改革が重要な改革の一つになるとみていました。ところが、国有企業改革は、網羅的な提案の全文にこそ盛り込まれましたが、コミュニケと習近平総書記の説明のなかには、これに触れた箇所が全くありませんでした(国有企業改革という言葉さえ出ていません)。これでは国有企業改革の優先度は高くないと見られても仕方がありません。

国有企業は再び統合・独占の方向へ

 私が思い描く、中国のあるべき国有企業改革とは「国有企業の範囲を国の安全保障、国防、国民経済の命脈に関係するごく少数の分野に限定し、それ以外は民営企業など非国有企業と平等な条件の下で競争させ、効率を高める」というものです。

 しかし、現状は正反対のように見えます。2015年には、鉄道車両製造・販売大手の中国南車集団と中国北車集団が合併して、中国中車株式有限会社が設立されました。中国国内ではほぼ独占状態となり、競争はなくなります。競争相手がいなければ企業は成長しません。対外的な競争力低下が懸念されるところです。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

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