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日本の次期首相に絶対的に必要なのは「円を守り抜く信念」
公明党の連立離脱で、日本政治は一気に先行き不透明に Yuichi Yamazaki/Pool/REUTERS
<急激な円安にも円高にも、体力が衰えた日本経済は耐えられない>
昭和末期に円高不況に苦しんだトラウマを背負った日本社会には、今でも「円安が国益」という思い込みがあります。確かに工業製品の輸出がGDPを支えていた時代であれば、例えば対ドルの円安となれば北米向けの輸出の円建ての売上は拡大し、ドルベースの原価は圧縮されます。そこには明らかなメリットがありました。
けれども、現在の日本経済の構造はかなり変わってきています。確かに経団連などの財界は依然として円安を歓迎する立場です。ですが、その理由は昭和末期や平成初期とは異なってきています。日本でモノを作って輸出するビジネスモデルから、海外で生産して販売するビジネスモデルへと多くの産業がシフトしているからです。今回のアメリカによる関税外交が典型ですが、主要産業における外国ブランドには消費地に来て現地生産をするような圧力がかかるからです。
こうした現地生産を進めるに当たって、良く言われてきたのが「為替の影響を受けずに済む」という言い方でした。確かに現地でのドル建て販売価格に対して、コストは製造元である日本で円建てで計算するのであれば、過度に円高に振れた場合には最悪赤字になってしまいます。現地生産ならば売値もコストもドル建てなので、確かに円高円安の影響は避けられます。
そうなのですが、円安メリットというのは別の形で出てきます。それはドル圏で稼いだ売上や利益、あるいはドル圏の市場で形成された株価が、「円安の場合は膨張する」という現象です。現在の日本国内は、35年にわたる経済の低迷に苦しんでいますが、多くの日本発の多国籍企業は史上最高益を謳歌し、更には大卒初任給として年俸500万円、30代はじめで年俸1000万超えといった高処遇も実現しています。岸田政権は「賃上げを実現した」としていましたが、その原因は海外での業績を円に換算すると膨張するからであって、日本経済が強くなったわけではありません。ちなみに、現地で生産し、現地で販売した場合の業績は日本の国内経済であるGDPには加算されません。
物価高による「円安格差」
一方で、こうした円安には大きなデメリットもあります。現在の物価高がその最たるものであり、原油も、建設資材も、そして小麦や大豆などの食品原料も、円安になれば価格はどんどん上昇します。ここまでの議論はかなり単純化したものですが、それでも「円安のために高給を得られる多国籍企業のエリート社員」に対して、「円安が招く物価高に苦しむ庶民」という、いわば「円安格差」というものが存在するのは厳然たる事実だと思います。
日本円に関する為替レートについては、別の見方も成り立ちます。それは他でもない日本国の累積債務の問題です。その総額は1300兆円で、破綻水域であるGDP比200%をはるかに超えています。ただ、その多くは日本国内の個人金融資産と相殺され、更に外貨保有もあるので、国の対外債務は危険レベルではないとされてきました。ですが、これから「手取りアップ」「防衛費増額」「強靭化」などコスト増となる政策を続けるのであれば、国債を国際債券市場に出す、つまり対外債務を増やす局面はすぐに来ます。その場合には、円高ですとドル建て債務は膨張するので、円安のほうが安全ということにもなります。
ここまでは中期的、つまり3~5年レンジの問題ですが、より深刻なのは直近に起こるかもしれない為替レートの激動です。為替レートというのは、巨大な国際通貨市場で形成されるものですが、時として投機筋の動きがレートを大きく変動させることがあります。まず心配なのが円安が止まらないリスクです。
過度の円安は、過度の物価高を招くだけでなく、日本国内のあらゆる資産、つまり不動産や企業が外資に買収される危険をもたらします。輸入品であるエネルギーや原材料、資材が暴騰して業績が悪化した企業は、円建ての株価が下がり、更に円安でその株価がドルから見ると縮小することで、簡単に外資に買われてしまう、そんな悪夢のようなスパイラルが起きかねません。
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