コラム

イラン攻撃への関与で真っ二つに割れるトランプ支持層

2025年06月18日(水)14時45分

そもそも、米世論の深層にはイランに対する深刻な敵対感情があります。イラン革命において、アメリカがパーレビ国王の亡命を受け入れたことに反発した学生たちが、在テヘランの米国大使館を占拠、大使館員を人質に取った事件が契機と言えるでしょう。アメリカは代理人としてイラクのサダム・フセインを使って、イラン・イラク戦争を継続したこともあります。

特に共和党のクラシックな軍事タカ派の中には、イランの核開発の動きに対して、アメリカが実力で破壊すべきという意見が根強くあります。例えば、議会共和党の重鎮であるリンゼー・グラハム上院議員は、この際「(大型の)バンカーバスターを供与すべきだ」と明言しています。「強いアメリカ」を意識せざるを得ない大統領には、こうした意見は無視できません。


その一方で、MAGA(アメリカを再び偉大に)運動で知られるコアなトランプ氏の支持者には、根強い「不介入主義」があります。他国のトラブルにはアメリカは関与する必要はないという強い孤立主義であり、アフガニスタン戦争やイラク戦争も強く否定する考え方です。ブッシュ元大統領の姿勢には、軍産共同体との結託があるとして激しい批判を浴びせるのもこのグループです。

バイデン政権との違いとして、トランプ政権がウクライナの支援に消極的なのも、この思想が背景にはあります。ウクライナ問題だけでなく、狭義の国益を左右する紛争以外にアメリカは関与しないという姿勢は、政権立ち上がり当初の言動にも多く見られました。

いわゆるMAGA派、つまりコア支持者の中からは、今回のイスラエル・イラン紛争においても、アメリカは関与すべきではないという意見が強くあります。まず、第一次政権の際に、トランプ政権の掲げる保守思想の一部の青写真を描いたスチーブン・バノン氏、2024年の選挙において熱狂的なトランプ応援団としてテレビやネットで活躍したタッカー・カールソン氏、この両名は介入に強く反対しています。

強硬論へと徐々に傾くトランプ

議会では、共和党議員団の中で最も保守的と言われるマージョリー・テイラー・グリーン議員も「イラン問題への軍事介入に賛成するようではMAGA派とは言えない」と強硬論を厳しく批判しています。

また閣僚の中でも、CIAとNSAに加えて、軍の諜報機関も束ねているタルシー・ギャバード情報長官は、「イランは最終的な核兵器を保持するには至っていない」という報告をすることで、軍事作戦への関与に反対しています。

そんな中、トランプ大統領は徐々にその発言が強硬論に傾いています。現時点ではイランの最高指導者ハメネイ師の殺害には反対だとしつつ、アメリカ東部時間の17日午後には、「イランに対する無条件降伏を要求する」というコメントも出しています。

イランは、新興の人工国家イラクとは違いますし、多民族で構成されているアフガニスタンやソマリアとも異なります。3000年近い歴史を持ち、独自の文化圏、言語圏を構成する国民国家で、人口も9000万ある大国です。アメリカがB2爆撃機と3万ポンドのバンカーバスターを供与すれば、イランは国の威信にかけて「これはアメリカの参戦だ」とみなして応戦してくるかもしれません。

そんな中、まるでイラン指導部を追い詰めるかのように、イスラエルはテヘランへの空爆を強化する構えです。国際秩序の、そして世界史の転換点が近づいているのを感じます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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