コラム

イラン攻撃への関与で真っ二つに割れるトランプ支持層

2025年06月18日(水)14時45分

トランプはカナダでのG7会合を早々に切り上げてイラン情勢対応のために帰国した Suzanne Plunkett/POOL/REUTERS

<イスラエルはバンカーバスター攻撃のためにアメリカの参戦を求めている>

イスラエルのネタニヤフ政権による、イラン核施設および政権中枢への攻撃が続いています。これに対するイランの反撃も続いており、両国は事実上の交戦状態に陥りました。事態に対応するために、トランプ大統領はカナダ・カナナスキスで行われていたG7サミットを中座してワシントンDCに戻リました。

首都に戻ったトランプ大統領は、国家安全保障会議をホワイトハウス内の「シチュエーションルーム」で開催するなど、慌ただしい動きを繰り返しています。現地の6月17日(火)は終日緊迫した動きが続きました。問題は、イスラエルからの要求です。


具体的には、イランの首都テヘランから約100キロ南のフォルドゥにある、核開発基地の問題が焦点となっています。この施設は、濃縮ウラニウムを保管していると言われており、またあらゆる攻撃から防御するために、山岳地帯の地下深く設置されています。イスラエルは、他の施設同様にこのフォルドゥ基地も完全に破壊したいと考えています。

ですが、イラン側の意図したように、とにかく山岳地帯を構成する岩石層の地下深く建設されているために、通常の空爆では破壊することができません。軍事専門家の間で言われているのは、この深さにある基地を破壊できるのは、大型のバンカーバスター爆弾と言われる、超重量級の貫通弾だけだとされています。

バンカーバスターとは、火薬重量を遥かに上回る重い構造物で爆弾を作り、上空から加速して落下させることで重力と慣性を利用して、硬い岩石や地盤を貫通させる特殊な爆弾です。戦術核の使用がタブーとなる中で、通常兵器による地下基地攻撃を可能とするために、米軍需産業は様々なタイプのバンカーバスターを開発しています。

イスラエルには大型バンカーバスターを運用する能力がない

アメリカは、イスラエルにも中型のバンカーバスターは供与しているのですが、とにかくこのフォルドゥ基地を破壊するには、大型の3万ポンドのタイプ、つまり約13.6トンのものでないと不可能だと言われています。そして、この3万ポンドのバンカーバスターは、イスラエルには供与されていません。

理由は簡単で、イスラエルにはそこまで重い爆弾を運用する能力がないからです。というのは、バンカーバスターは攻撃目標の上空から落下させて使用するものですが、3万ポンドのタイプを運んで投下できるのは、アメリカのB2爆撃機だけであり、イスラエルは保有していないからです。

そこで、イスラエルは3万ポンド弾とB2爆撃機を使った攻撃をするように、アメリカに要求しています。爆弾だけであれば、兵器を供与しただけですが、爆撃機もセットでとなると、要するにアメリカが参戦して攻撃を実施して欲しいということになります。爆撃機を供与しても、乗務員の訓練には時間がかかるので、イスラエル空軍による攻撃とするには時間がかかるからです。

また、B2というのは戦略核攻撃にも利用できる巨大で高性能な爆撃機ですから、供与すると地域の安全保障バランスが崩れてしまう代物です。簡単には供与はできません。つまり、そうした様々な要素を逆手に取って、イスラエルはアメリカに参戦するよう迫っているとも言えます。

では、トランプ大統領はどうしてG7を中座してワシントンで緊急会議を続けているのか、それはこの問題に関して、米国内では賛否両論があるからです。賛否両論といっても、今回の場合は、与党の共和党が賛成し、野党である民主党が反対するという通常の対立構図ではありません。トランプ政権の支持層に深刻な亀裂が走っているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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