コラム

グーグルへの公取「排除命令」は、日本のデジタル赤字対策になるか?

2025年04月16日(水)15時45分

著作権法の何が問題かというと、検索サービスに必要な情報の転載や複製は違法とされたからです。問題意識は当時からあり、21世紀になって著作権法は数回の改正がされましたが、現時点でも商用目的の転載や複製は「軽微利用」しか認められていません。ですから、依然として日本語で提供される検索サービスについては、グーグルなど外資による国外のサーバに頼っているのが現状です。

ですから、いくら「公正な競争」を目指して公取が頑張っても、日本の民族資本による検索サービスが復活して、デジタル赤字が縮小するということには「ならない」のです。


デジタル赤字ということでは、もっと大きな問題もあります。例えばICT(情報通信技術)といって公教育におけるデジタル化が進んでいますし、官公庁のデジタルによる情報発信は進んでいます。ですが、日本の国家行政の根幹に関わる問題でも、そのプラットフォームはWordやTeamsなどのマイクロソフト製品であったり、アドビのPDFであったりするわけです。

また、ブームになっているYouTubeでは、毎日のように大勢のユーチューバーにより、大量の日本語コンテンツがアップロードされて、日本国内で大量に視聴されています。ですが、この動画配信の環境は全てグーグルが仕切っており、売上も利益も国内には落ちません。

インフラを用意する資金力がない

どうして民族資本のデジタルプラットフォームが成立しないのかというと、まず巨大なサーバなどのインフラを用意する資金力がないからです。また、仮に国内に巨大サーバが増えたとして、電力の供給やコストに制約があります。さらに言えば、少しでもスキがあれば不正アクセスの危険がある中で、最先端のセキュリティ水準を実現するだけの技術力と人材の厚みがありません。ですから、どうしても外資に頼らざるを得ないのです。

デジタル赤字の問題は、単に課税や公取の摘発などといった、散発的な対応で改善する問題ではないのです。DXに関わる国を挙げての競争力をどうやって回復するのか、社会の幅広い部分における改革が必要です。少なくとも、大学進学率が50%を超え、中高レベルの数学リテラシーが今でも世界のトップ水準である日本で、デジタル化は外資頼みというのは不自然です。

前述の「フレッシュアイ」の事例で考えても、98年以来の27年という膨大な時間が失われています。同じ時間を使ってグーグルが達成した成果と比べると、文明のレベルで何かが決定的に間違っていたとしか言いようがありません。その間違いを見据えて、本質的な方向転換が求められるのです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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