コラム

トランプが南米ギャング団幹部を国外追放、司法との対決に直面

2025年03月19日(水)15時00分

三権分立を無視するトランプ政権のやり方に連邦最高裁ロバート長官が反旗 Andrew Harnik/GETTY IMAGES

<国外追放を無効にした判事を罷免しようとする政権を最高裁長官が厳しく批判>

1月に第2次トランプ政権が発足すると、米移民関税執行局(ICE)は全国で一斉に不法移民の摘発を開始しました。トランプ大統領は数百万人単位で摘発するとしており、今のところ全国で1日平均1000~2000人のペースとなっているようです。

当初のイメージは、違法エージェントの手を借りて、南部国境を突破してきた不法移民のなかには、凶悪犯罪を冒すような人物がおり、治安悪化の原因となるというのがトランプ氏の説明でした。ですが、ここへ来て単純な不法移民摘発では話題性に乏しいと判断したのか、摘発の対象が拡大しています。


まず大きな話題になっているのが、ベネズエラ出身の国際ギャング団「トレン・デ・アレグア」の問題です。このグループは当初はベネズエラ国内で犯罪行為を重ねており、国内では警察力などによって制圧されたものの、幹部は国外逃亡。南北アメリカで広範な犯罪を行う多国籍ギャンク団となっていました。

米国内にも潜入して組織を拡大し、コロナ禍中にシカゴやニューヨークで凶悪犯罪を重ねるなど問題を起こしていました。そこで、FBIなどは徹底した摘発を行って幹部などの身柄を拘束、米国法に基づいて処断するつもりでした。ところが、トランプ氏は、「これこそ、最悪の不法移民だ」として、約200人を国外追放すると決定。エルサルバドルへ向けて特別機で送り出しました。

これは公判中の被告人を、ある意味では一方的に不起訴にして国外退去処分で済ますことになります。そこで連邦判事は、国外追放を無効とする仮処分決定をして、特別機の帰還を命令しました。ところが、トランプ政権は、この命令は一部のリベラル派判事の勝手な判断だとして無視しています。更に、この決定を下した判事を罷免する手続きに入るなどとしていました。

三権分立すら尊重しない

別に連邦判事は被疑者の味方をしているのではなく、凶悪犯なりに裁判を受ける権利があり、同時に有罪の場合は厳罰に服する義務もあるわけで、全体的な法秩序を守ろうとしただけです。むしろ、特別な凶悪犯の場合は、警備の緩い中南米の刑務所は信用できないので、アメリカとしては容疑者を自分たちで拘束して裁いて罰するというのが国策であり、それを実行しているだけとも言えます。

おそらくトランプ政権は、そうした裁判や処罰自体が「余計な負担」であり、悪いヤツは追放すれば裁判のコストも刑務所のコストも削減できる、とにかくアメリカ「だけ」が安全ならいい、という発想法で動いているようです。その上で、オバマ政権が任命した判事に権限があるようなら、三権分立など尊重しないということのようです。

もう1つ、これから問題が大きくなりそうなのが、アイビーリーグの一つであるブラウン大学医科大学院の准教授の国外追放問題です。レバノン人である彼女は、合法的な就労ビザを得てブラウン大学に勤務していましたが、一時帰国の後にアメリカに入国しようとして拒絶され、国外退去処分となってしまいました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は6日ぶり反発、米欧対立への過度な警戒が緩

ビジネス

中道改革連合が発足、野田共同代表「食料品消費税ゼロ

ビジネス

インド中銀、国営銀通じてドル売りのもよう=トレーダ

ビジネス

ノルウェー・テレノール、タイ通信大手株を39億ドル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story