コラム

維新が全国政党になるためのカギは地方政策

2023年06月07日(水)11時30分

第2の問題は、とにかく実行可能であるということです。痛みを伴う不連続な改革でも構わないとしても、少なくとも実行可能でしかも効果のある地方政策を、改めて示す必要があります。

例えば、テレビ番組にもなっている「ポツンと一軒家」の問題があります。特に多雪地帯の場合ですが、一軒の住宅のために町村が近くまでの除雪を担うというケースが見られます。このコストがバカにならないことから、多くの「ポツン」の世帯には、山を降りてもらって例えば駅や病院に近い市街地の集合住宅に移転してもらうというアイデアがありました。除雪コストだけでなく、老朽化したトンネルや橋梁を更新するよりは、集団で山を降りてもらうほうが安いというケースも多くあります。

いわゆる「コンパクトシティ構想」ですが、実はあまりうまく行っていません。どうしてかというと、多くの「ポツン」は市場価値がゼロであるために、自宅を売却して市街地に不動産を購入してもらうというスキームが成り立たないからです。では、公費から支出して町営住宅などを建設して移ってもらうとすると、便利な場所の場合は、そのような再開発によって「簿価」が「現実的な市場価値」に置き換わってしまいます。そうすると、今度は周辺の土地もろとも担保価値が減って、地銀の経営が立ち行かなくなるというケースが出ます。

本当の「統治能力」が求められる

別の問題では、地方では昭和末期以降、「交通インフラの三重整備」つまり「地方空港」「新幹線」「高規格道路」の整備を進めた時代がありました。当時は、インフラができれば経済が発展するというファンタジーが横行していたのですが、実際は過剰インフラのために、鉄道が破綻するとか、空港があっても便が来ないなどの問題が出ています。線路を剥がしてバス転換したものの、そのバスも赤字と人手不足で維持できない地域も多くなっています。

分散型コミュニティを集約する問題も、交通システムを持続可能な状態に持っていく問題も、解決は本当に大変です。そして、地方にはこの種の問題が山のように横たわっています。もちろん、自民党や旧民主党のように、面倒なことはカネを投入してバラマキでごまかしつつ、問題を先送りするのは誤りであり、ある種の一刀両断が必要な場合はあると思います。

ですが、実際に改革を成功させるには、本当の統治能力が必要であり、無能な人間が乱暴なリストラを繰り返しては、結果も出ないし、やがて民心に見放されます。地方には改革が必要であり、待ったなしであるのも事実です。しかし、地方の改革を成功させるのには、過去の順調だった時代、先送りができてしまった時代と比較して、本当に有能な人材と正しいアプローチが必要です。この点において、維新が本当に地方から信頼される政治勢力となり得るのかは、全くの白紙であると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story