コラム

助走期間を設けない「18歳成人」は乱暴すぎる

2022年04月13日(水)14時00分

2つ目の問題は、「成人への助走期間」という問題です。20歳成人の制度の時は、その前に18〜19歳といういわば「助走期間」がありました。法的には、18歳と19歳というのは、一部の刑法で成人並みの扱いがある以外は、これまでは「未成年者」でした。

ですが、多くの若者は高校を卒業して、就職したり、大学や専修学校に進学したりすることで、高校生とは異なった「成人への助走」ができたわけです。なかには、家を離れて自活したり、そうでなくても個人の収支を計算する、交友範囲が拡大し、社会貢献の機会も広がる中で、成人となる準備を経験できたわけです。

ところが、18歳成人というのは、高校生が高校生のままに成人することになります。ですから、従来のままですと家と高校を往復するだけの生活をする中で、突然「成人」になってしまうわけです。これでは、有権者としても、また刑事上、民事上の成人としても権利と義務を100%行使してもらうのには「唐突感」があります。

助走期間には何が必要か

では「助走」として、どんなことが考えられるかというと、例えばですが、

「ボランティアやアルバイトを奨励して、成人の保護下で金銭の授受、契約の締結などを伴う商取引の現場を経験させる」
「16歳から17歳には、何らかの保護機能を付加した銀行口座、与信枠の小さなクレジットカードを発行して、仕組みを経験させておく」
「警察、消防、裁判所、検察庁、救急病院、交通機関といった公的サービスの現場で、ボランティアをさせて実社会の権利と義務の仕組みを体験させる」

といった工夫が考えられます。少なくとも、校則で学校以外での社会参加を禁止しておいて、18歳になったらフルの権利義務というような状況は、ムチャクチャだと思います。

現在は18歳におけるAV同意の効力について、論争が起きていますが、少なくとも出演によって受けるダメージ、社会における複数の性的価値観などを含めた、広義の性教育を18歳までに完了することなく、いきなり契約の当事者にするのは乱暴だと思います。17歳までは成人コンテンツを見てもいけないのに、18歳になると自分の同意だけで、将来まで影響する出演契約の拘束を受けるというのは無理があります。

また政治活動に関しては、現行法では18歳未満のネット選挙運動は刑事犯罪とされています。そもそも政治的活動の自由は法律以前の天賦人権であるはずで、刑事犯などという制度設計には疑問を感じます。それはともかく、16歳から17歳の助走期間にしっかり国政と地方行政について当事者意識を持った「助走」をさせないどころか禁止しておいて、18歳になるといきなり「一票を付与」というのもまた乱暴な話です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過去最高水準に
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story