コラム

ポスト・アベノミクスに待ち構える困難とは?

2021年10月06日(水)14時00分

新自由主義からの方針転換を打ち出した岸田新首相だが Kim Kyung Hoon-REUTERS

<経済政策の看板として「格差是正」を掲げる岸田政権だが、政策として実行可能なゾーンはそれ程、広くない>

発足した岸田政権の経済政策には「分配による格差是正」などの「新しい資本主義」という看板が掲げられています。宏池会「創業者」の池田勇人が1960年に掲げた「所得倍増」という言葉も使われています。

ですが、岸田首相は別に自由経済を否定しているわけでもないし、産業の競争力や活力を殺すような規制を進めるわけでもないと思います。政策の名前は変わっても、税制や福祉のチューニングを変えて、現役世代、子育て世代への支援になるように調整したり、リターンの見込みのある地方振興策には資金を用意するといった現実的な話だと理解できます。

しかし所得倍増に至っては、実現は簡単ではありません。日本のオフィスワークが「日本語」「紙とハンコ」「対面コミュニケーション」といった理由から生産性の低迷に苦しんでいる現状を変えて、徹底した標準化、自動化を進めなくては成立しない話です。

そんなわけで、格差是正とか所得倍増といっても、そんなに夢のような転換が起きるわけではないと考えた方が良さそうですし、政策として実行可能なゾーンというのは、広くはないと言えます。

問題は円安誘導政策

そんな中で、気になるのがアベノミクスの今後です。アベノミクスについては、「修正」つまり、看板としてはおろされるようです。ただ、「3つの矢」のうち、2番目の公共投資については、やめるわけではないと思います。また、第3の問題である構造改革については、デジタル化にしても、生産性向上にしても、待ったなしの課題になっていますから、岸田政権としても逃げるわけにはいきません。

問題は、「第1の矢」である金融緩和、特に円安誘導政策についてです。確かに、安倍、菅の2つの政権を通じて、円安政策が続きました。当初は、円安が株高を実現したという印象から、漠然とした好況感が発生しました。ですが、その効果は限定的であったし、近年はその弊害が顕著になっています。

効果が限定的だったのには、3つの理由があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国吉利汽車、傘下ジーカーを非公開化へ 再編で競争

ワールド

マクロスコープ:エンゲル係数が示す貧困化、「統計の

ワールド

G20財務会合、「動乱の時期」に国際関係深化を目指

ワールド

シンガポール、下半期は成長減速へ 中銀長官「相当な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 6
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 7
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 8
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 9
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 10
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story