コラム

夫婦別姓に反対する保守派の本音はどこに?

2020年12月10日(木)16時00分

「通称としての旧姓利用」は日本社会にすっかり定着している kokouu/iStock.

<「古き良き日本」という幻想が崩れるのが苦痛だという、極めて概念的な原理主義ならその理屈は理解できるが......>

自民党内の保守派は「選択式夫婦別姓制度」について頑強に反対しています。しかし時代が少しずつ進むなかで、有権者の世代交代が起きてくると、選挙に落ちては大変ですから多くの議員は徐々に態度を軟化させてきました。これを受けて、最高裁大法廷で審理されることになったので、判例変更となるかもしれません。

報道によれば、別姓反対派は、この11月に自民党内の議員連盟として「『絆』を紡ぐ会」というのを結成したそうです。(発起人は高市早苗議員、山谷えり子議員、片山さつき議員など)その会は12月3日に、下村博文政調会長に対して、選択的夫婦別姓の導入には慎重に対応するとともに、旧姓の通称使用を拡充するよう求める提言書を手渡したそうです。

提言書の中では、夫婦同姓は「子育てや夫婦親族相互扶助の環境づくりの土台」として、別姓に関しては「子どもたちの心への影響を考えれば慎重になるべきだ」としていると報じられています。

この問題で、今ひとつ分からないのは、こうした反対派の本音です。今となっては、イデオロギーによる勢力争いになっているので、高齢保守票を抱えた選挙区の議員、組織票がなく高齢保守票にも手を伸ばさざるを得ない議員などは、立場を硬化して票を固めるしかないのかもしれません。

子供への「いい影響」の不可解さ

ですが、特にこの問題については、とにかく反対派の理屈と心情が見えないのです。例えば、似たような保守派の主張として、婚外子(非嫡出子)の相続差別肯定という問題があります。これは既に最高裁判決が出て民法も改正されていますが、一時は差別を肯定する保守派が頑強に法改正反対を叫んでいました。

この問題では「他の女性との間で子供を作る男性の正妻は、じっと耐えて家を守っているので、少なくとも自分の子供と婚外子とは相続で差をつけなくては我慢がならない」という「イエ」や「正妻」の立場からの議論というように考えれば理解はできます。間違っていますし、既に是正もされた問題ですが、当時の反対論は何を根拠にしていたのかはイメージできるわけです。

ところが、夫婦別姓反対論というのは、その根拠が見えません。例えば、今回の「会」の主張では、「通称として旧姓利用を拡大すべき」としながら「戸籍だけは同姓」にするというのが、「子どもたちの心への影響」にとって大切というのですが、全く意味不明です。

お母さんは旧姓を通称として学会発表をしたり、それこそ国会議員として活躍したり、ビジネスの交渉をまとめたりしているが、家にいるときは夫婦同姓の戸籍謄本を見せて育てると、子どもにいい影響があるなどという理屈は、やはり理解不能でしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story