コラム

【オバマ回顧録】鳩山元首相への手厳しい批判と、天皇皇后両陛下への「お辞儀」の真実

2020年11月19日(木)17時00分

では、本書では日本について、そのようにネガティブな形容で一貫しているのかというと、そうではありません。同じく2009年の訪日に関しては、当時の天皇皇后(現在の上皇と上皇后)両陛下との面会について、多くの文字数を割いて記述されています。

ここでは、上皇さまが昭和天皇の息子として困難な歴史の中を歩んでこられたことに思いを馳せるとともに、上皇后さまが「2600年の皇室の歴史の中で初」の民間出身の皇太子妃として皇族に入られたことによるご苦労などに、オバマ氏は深い感銘を受けたとしています。とりわけ、上皇后さまからは別れ際に「自作のピアノ曲の楽譜」を贈られ、その際に驚くべき親密な姿勢で「音楽への愛、詩歌への愛が自分の(皇室における)孤独な痛苦を慰めてくれた」ことを語られたというエピソードを紹介しています。

後編にも期待

その上で、オバマ氏はそのような両陛下に対して深い畏敬の念を抱いたことが、自然な形で「お辞儀」につながったのだとしています。その「お辞儀」についてアメリカの右派から「裏切り者」、つまり合衆国大統領が他国の君主に屈服しているとして批判を浴びたことについては、最大限の表現で怒っていました。

ということで、この部分の全体としては、「鳩山外交に関しては明確に批判」しつつ、「当時の天皇皇后両陛下への畏敬」を異例なまでの強い表現で述べて、日米関係全体に関する記述としてはニュートラルにし、加えて「お辞儀問題への国内からの批判に強く反駁した」という構成になっています。いかにもオバマ氏らしい多面的なロジックであり、また知的なバランス感覚の発露であると思います。

ちなみに、2期目における「オバマ=安倍外交」、とりわけ中国に対する「リバランス」と日米韓連携を含むアジア外交、そして安倍前総理との広島と真珠湾における「相互献花外交」については、本書では言及されていません。こちらについては後篇にあたる2冊目を待つことにしましょう。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ウ和平交渉で立場見直し示唆 トランプ氏

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story