コラム

敗北を認めないトランプを共和党議員団が支持し続ける理由

2020年11月12日(木)16時45分

ボス格のマコネル上院院内総務(写真中央)ら共和党議員団は大統領選について沈黙を続けている Ken Cedeno/REUTERS

<年明けに予定されているジョージア州上院選の決選投票が、トランプを支持せざるを得ない状況を生んでいる>

トランプ大統領は、大統領選の結果について依然として沈黙しています。今週11日は「ベテランズデー(退役軍人記念日)」でしたが、公式セレモニーには出席したものの、特にコメントは出していません。とにかく選挙における敗北を認めないので、バイデン次期大統領は引き継ぎ作業ができずに困っています。

けれども、負けず嫌いで奇手を好むトランプ大統領のことですから、起死回生を狙って法廷闘争に訴えるなどの抵抗を続ける姿勢についても、特に不自然とは思えません。問題は、共和党の主要な政治家たちが同じように沈黙していることです。

報道では、共和党の中でもバイデン氏を次期大統領として認め、トランプに敗北を受け入れるように勧告を始めた議員も出てきてはいます。ですが、その多くは、ミット・ロムニー上院議員(ユタ州選出)など、以前からトランプ大統領に批判的で「トランプ票」に依存する必要のない強固な選挙区での地盤を持っている政治家です。

一方で、それ以外の議会共和党の議員団は、ボス格のミッチ・マコネル上院院内総務(ケンタッキー州選出)をはじめ、多くを語らない中ではありますが、トランプの「敗北を認めない姿勢」を支持しています。

考えてみれば、おかしな話です。というのは、今回の選挙における議会共和党は、上下両院で事前の予想を完全に覆す善戦を見せているわけで、党勢の後退を食い止めることに成功しました。ということは、番狂わせによって落選の憂き目にあって怒っている議員はほとんどゼロ、反対に多くの議員が僅差で当選してきています。

鍵になるのはジョージア州の上院選

ということは、議会共和党には「今回の選挙結果をひっくり返す」ことへのメリットはありません。むしろ「ひっくり返されては困る」のです。何故ならば、大統領選と上下両院の議会選の投票用紙は、多くの州で同一の1枚となっているからです。本音の部分では共和党議員団としては「再集計」とか「法廷闘争」などの動きに乗る動機はないのです。

それにもかかわらず、議会共和党の大多数が依然としてトランプへの支持を続けているのには、理由があります。それは「ジョージア州の上院選決選投票」です。

議会上院の現時点での状況ですが、時間がかかっていたノースカロライナ州とアラスカ州の集計がほぼ完了したことで、定員100名のうち、共和党は50議席、民主党は48議席をほぼ確実にしました。残るは2議席で、これは年明け早々、1月5日に予定されているジョージア州での決選投票に持ち越されることとなっています。

憲法の規定により、50の各州は2名の上院議員を選出することができ、任期はそれぞれ6年ですが、2名の議員の改選時期が重ならないように設定されています。ですが、ジョージア州の場合は欠員の補選があるため、今回は本選挙と補欠選挙の2議席について民意の審判を受けることになっています。

選挙は行われましたが、2議席のどちらも「50%を超える当選者」が出ない見込みです。ということは、ジョージア州の規定では決選投票になります。この決選投票で、共和党は1議席でも獲得すれば上院の過半数を制することができます。一方の民主党は2議席の双方を取れば50対50のタイに持ち込めます。その場合は、上院議長を兼ねるハリス次期副大統領が最終の1票を投じることができますから、民主党としては上院をコントロールできるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story