コラム

追い込まれたトランプが、自分で自分を恩赦する?

2020年11月10日(火)17時00分

ホワイトハウス前に貼られた「You're fired!(お前はクビだ!)」のプラカード Hannah Mckay-REUTERS

<このタイミングで国防長官を更迭する異常事態、トランプ政権の幕引きには「ペンスのクーデター」も必要なのか>

先週末11月7日(土)にアメリカの各メディアがバイデン候補の当確を報じ、バイデンはその晩にデラウェア州で勝利宣言を行いました。その一方で、トランプ大統領は慣例となっている敗北宣言をまだしておらず、依然として徹底抗戦の構えを崩していません。

そんな中、週明け9日にトランプは、かねてから確執の噂のあったエスパー国防長官を更迭しました。つまり、国防長官のポジションにイエスマンを送り込もうというわけですから、そこにはキナ臭いものが感じられます。

例えばですが、国防関連の記録から大統領として行った言動のうち、将来問題になりそうな部分の証拠隠滅を図るとか、あるいは退任ギリギリまで軍を掌握しておいて、情勢によっては逃亡や亡命を図る可能性を残しておく......荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、そのような可能性もゼロではありません。

トランプが敗北を認めず、軍の掌握に必死になる背景には、退任後に多くの容疑で訴追されることを恐れているという見方もあります。容疑としては、公私混同、機密漏洩、偽証、セクハラ、脱税、選挙資金の不正流用、国家反逆など様々なものがあげられます。大統領の特権に守られているうちはいいものの、退任して「タダの人」となった瞬間に逮捕、起訴されるという危険を、他でもないトランプ本人が感じている可能性は相当程度あります。

回避したい「独裁国家のような不祥事」

そこで話題になっているのが、自分で自分を恩赦するという可能性です。法律上の大統領の権限は非常に強く、有罪判決にしても刑事上の容疑や起訴にしても、ほぼ無条件で何でも「なかったこと」にしてしまうことが可能です。例えばですが、過去に多くの大統領が、退任間近になるとドサクサに紛れて知人などを恩赦してしまうことがあったのは事実です。

トランプの場合は、おそらくこの恩赦を乱発すると思われますが、極めつけは「自分で自分のあらゆる容疑を恩赦する」という措置です。とにかく判例がないので、連邦最高裁がどういった判断をするかは分かりませんが、可能性としてはゼロではありません。そして、前大統領を刑事告発するという「独裁国家のような不祥事」を回避するためならば、大義名分はゼロではありません。

ただ、この「自分で自分を恩赦」には、民主党は反対するでしょうし、その強行を許すとなると共和党や連邦最高裁の権威は傷付いてしまいます。そこで考えられるのが、ペンス副大統領の存在です。

どういうことかというと、この恩赦問題と、敗北を認めない問題を処理するために、ペンス副大統領が、「トランプ大統領の心神喪失」を宣言し、閣議の多数決をもって一方的に、自分が大統領代行に立つというものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

地盤ネットHD、井村氏が代表の会社と投資機能活用な

ビジネス

高市首相と植田日銀総裁、金融経済情勢に関する一般的

ワールド

インド卸売物価、1月は前年比+1.81% 10カ月

ビジネス

日経平均は3日続落、決算一巡で手掛かり難
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story