コラム

なぜ個人商店はコンビニチェーンに駆逐されたのか

2019年12月26日(木)18時30分

フランチャイズ本部に対するコンビニオーナーの不満が最近噴出している(画像はイメージで記事の内容とは関係ありません) Toru Hanai-REUTERS

<バブル期以降、金融機関は自営業に融資する「与信」のスキルを失い、個人の起業などリスクのあるニーズに回せる資金が枯渇してしまった>

人手不足の中で時短営業を主張していた東大阪市の「セブン-イレブン」のオーナーに対して、本部からは契約解除の通告がされるなど、対立が深刻化しているようです。

これはフランチャイズ本部と、フランチャイズ加盟者であるオーナーとの対立であり、個別の問題という見方もできます。ですが、ここ数年、特にコンビニという業態においては、オーナー側からの不満が報じられることが多くなってきたのは事実です。

▼本部により勝手に発注がされる
▼売り切れへのペナルティが厳しい一方で、売れ残り廃棄は各店の責任になる
▼季節商品のノルマが厳しい
▼安売り店の小売価格より高い仕入れ価格を適用される
▼24時間365日の営業を強制される
▼成功していたら同じチェーン店が周囲に「ドミナント出店」して収益を食われた

もちろん、上記の中には社会的批判の高まりによって改善されつつある条項もありますが、全体的には本部が優越的立場を使って、現場に負担を強いている(少なくともそのような印象を受ける)のは事実だと思います。

では、本部は悪どいことをやって収益を吸い上げているのかというと、そこまでの批判はあたらないと思います。確かに本部では、大企業として大きな間接部門を抱えており、そのコストを捻出するためにロイヤリティーなどの収益があてられているのは事実ですが、本部の行う商品開発やマーケティングなどがなくてはチェーンの発展もないことを考えると、全てが悪質な利益の吸い上げとは言えないからです。

チェーンの中で、「セブン-イレブン」に批判が多いのは、他の大手チェーンがコンビニ専業であるのに対して、セブンの場合は「セブン&アイ・ホールディングス」として、百貨店事業(西武+そごう)やスーパー事業(イトーヨーカドーなど)の「負の遺産」を抱えている点から、コンビニが「より稼いで全体を支える」必要に迫られているからとも考えられます。

その一方で、今回契約解除の通告を受けた東大阪のオーナーなどの場合、例えばフランチャイズ契約を解消して、「独立自営の食料品店」として自立していくということは可能かと言うと、現在の環境では非常に難しいのが現実です。

よく考えると、日本でも昔は「自営の食料品店」というのは、どこにでもあったように思います。例えば、肉屋をベースに調味料や菓子など多岐にわたる商品を扱っていた店、酒屋をベースに「乾き物」や袋菓子、清涼飲料などを幅広く売っていた店、米屋をベースに「よろず屋」的に営業していた店などが、1980年代までは日本中で多く見られました。

そうした店の場合は、完全に個人経営であって経営の基盤は安定していたようですし、何よりも「本部」の支配を受けてヘトヘトになるということはありませんでした。どの店も、一国一城の主だったのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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