コラム

『スター・ウォーズ』完結、半世紀の米現代史を反映した3つの3部作

2019年12月24日(火)16時00分

これに対して、新3部作は2015~19年という比較的短い期間に制作されたことで、「2010年代後半」の時代を強く反映したものとなりました。まず、レイという強い女性主人公が据えられ、これを補佐するのはヒスパニック系とアフリカ系の男性ということで、多様性尊重の価値観が強く押し出されています。また、カイロ・レンという「弱さゆえに権力を志向する」人物像を悪役に持ってきたのも、この時代の世相を反映したものだと言えるでしょう。

この新3部作に関しては、オリジナルの4から6の3部作と比較すると、出来栄えは今ひとつという評価が定まっていますが、それでも多様性という問題、「弱さゆえの悪」というキャラクターなど、2010年代後半の時代を代表した作品にはなっていると思います。

けれども、時代の流れはどんどん速くなっています。2015年には新鮮に受け止められた女性主人公が、2019年にはむしろ「当たり前」になっています。また、カイロ・レンのような「人間の弱さ」の描き方というのは、やや陳腐になってきている、つまり社会がそうした「弱さ」に理解を示して無害化することを志向しつつあります。

そう考えると、2020年代の世界というのはまったく別の種類の葛藤や、対立を抱えていくことになるのでしょう。『スター・ウォーズ』がそれぞれの時代を反映したこと自体が、過去のものとなりつつある今、今度は2020年代という新しい時代がどのような時代になっていくのか、考える局面を迎えています。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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