コラム

アメリカのオフィスでは、意外にも社内恋愛が生まれにくい

2019年11月26日(火)19時40分

アメリカでは「社内恋愛禁止」のケースも多い kieferpix/iStock.

<職場の多様性の実現に真剣に取り組むが故に、特に管理職と部下の恋愛関係には厳しい>

アメリカの「マクドナルド」本社は今月3日、イースターブルックCEOの解任を発表しました。その原因は「部下と恋愛関係を持ったため」ということです。

ただし、独身である同氏は双方の合意の上で恋愛関係を持ったのであり、企業の内規に違反はしても、社会通念上批判されることではないようです。従って、約70万ドル(約7700万円)の退職金に加えて、業績ボーナスなども支払われるそうです。

ちなみに、この種の「社内恋愛禁止」というのは、アメリカでは結構よくあるようです。具体的な理由としては、人事査定や業務命令などにおいて「私情を交えた決定」が起こる危険を避けたいということがあります。

さらには「そのような私情の介入を恐れ、異性間のチームや上下関係ができることを避けるようだと、最終的に人事が歪められてジェンダーのダイバーシティ(多様化)の足を引っ張る」という懸念があるからです。

つまり、女性の上司と男性の直属の部下という組み合わせになるような人事を行っては、万が一にお互いに恋愛感情が発生してしまい、その結果としてビジネスに私情が持ち込まれる、その心配から「女性を管理職にしない」とか「男性の多い職場に女性をどんどん配置できない」というような人事慣行になると、結果的に女性の権利が制限されてしまう――そうしたロジックです。それならば管理職には厳格に、ということです。

男女関係などにはオープンなアメリカにしては、厳しすぎる印象があるかもしれません。そのぐらい、ダイバーシティの実現について、アメリカ社会は真剣にやっているということです。

これに加えて、アメリカには「社内恋愛を好まない」というカルチャーが背景にあるのも事実だと思います。

一つは、とにかく仕事や職場は「嫌い」であり、生活のための「必要悪、コストとしての束縛、苦役」という大前提があります。もちろん、アメリカでも高いモラルとモチベーションを持って仕事をしている人は大勢いますが、それでもほとんどの人は、1日でも早く「ハッピーリタイアメント」をしたいと思っています。

例えば、日本には文房具を好むというカルチャーがありますが、アメリカ人は「文房具イコール嫌いな仕事の道具」というイメージがあり、文房具そのものを愛玩するということはありません。ですから余程のことがない限り、仕事の人間関係をプライベートな時間に持ち込むことはないし、その結果として社内恋愛は起こりにくいのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story