コラム

日本の「移民」議論で、まったく欠落しているもの

2018年11月29日(木)16時00分

1点目は言語です。市場が縮小する日本だけでは多くの企業は生きていけません。そこで海外市場に活路を得ていくわけですが、現在は、市場が多国籍なのに、本社の管理部門では日本語の事務作業が続くという非効率が残っています。また、英語で経営、会計、法務が進むインフラがないために、多くの国際的な大企業がアジアの拠点を日本に置かなくなっています。この流れの延長で、日本発の国際企業もやがて日本語による管理機構を廃止して出て行ってしまう可能性があります。そうなる前に、ビジネスにおける頭脳労働の言語を英語に切り替えなくてはなりません。

2点目は、最終製品メーカーを目指すということです。航空機の炭素繊維素材では世界一でも、最終メーカーでなければ部品産業として価格決定権は弱く、利幅も少ないままです。スマホにしても同じで、いつまでも過去の技術力の遺産を食いつぶしながら部品産業を続けているのでは将来はありません。

3点目は、改めて世界の最終消費者向けのビジネスに戻るということです。電気メーカーを中心とした日本企業は、変化の激しいB2C市場を避けて、B2B市場に特化して生き延びるという戦略を取っています。ですが、それは大局的には逃避であり、改めてB2Cという巨大で安定した国際市場に戻らねばジリ貧になると思います。

4点目は、目に見えない金融やソフトウェアといった従来の日本が不得意にしていた分野を、歯を食いしばって一流にすることです。21世紀の現在、モノというのは、カネや情報を動かす道具にすぎず、基本的にコモディティー化の一途をたどっているからです。

とにかく、こうした4点の改革をしていかなければ、日本経済は本当に貧しくなり、年金受給世代と移民が消費を主導する慢性デフレ国家になってしまいます。本来はアベノミクス「第3の矢」としてこうした改革が進むはずが、貴重な時間が空費されているのは何とも残念です。

今回の移民議論の最大の問題点は、そのような産業構造戦略が欠落している点です。その意味で、移民が来ると賃金水準が下がって日本全体が貧しくなるという直感的な恐怖感には、理由がないわけでもないのです。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏の権限拡大、歯止め失い政府機関

ワールド

メキシコ中銀、今年のGDP予想を0.6%増へ引き上

ワールド

韓国8月輸出は予想下回る、対米が12%減 チップ需

ワールド

オーストラリアで反移民大規模デモ 政府はネオナチが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマンスも変える「頸部トレーニング」の真実とは?
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 6
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 9
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story