コラム

ジュリアーニはトランプの切り札なのか、それとも刺客なのか?

2018年05月22日(火)16時20分

同時多発テロの対応では世界中から尊敬を集めたが Joshua Roberts-REUTERS

<トランプの顧問弁護士に就任したジュリアーニは失言続き。実はトランプ政権への刺客として送り込まれた、という見方まで飛び出す始末>

ルドルフ(ルディ)・ジュリアーニ氏といえば、1994年から2001年までニューヨークの市長を務め、市の治安を飛躍的に改善するとともに、2001年9月にNYを襲った9.11同時多発テロの際には、危機管理のお手本と言われ、世界中から尊敬を集めたこともあります。

その手法は、記者会見で徹底した情報公開を続ける一方で、亡くなった市警察・消防隊員の葬儀には全て参列するという誠意を見せ、そしてブッシュ政権や、NY選出の上院議員だったヒラリー・クリントンなど国政サイドとの連携を心掛けるという正攻法でした。

そのジュリアーニ氏は、2008年の大統領選の前には、共和党の「本命」と言われました。ですが、当時の共和党を牛耳っていた「宗教保守派」から猛烈なバッシングを受け、予備選序盤であっけなく敗退したのです。そのバッシングというのは、「銃規制に賛成し、中絶を容認するのはニセ保守だ」というのと「不倫して離婚し、再婚するというのは政治家失格」という個人的な中傷でした。

2016年の大統領予備選でジュリアーニ氏は、4月という比較的早い時期にトランプ支持を打ち出して世間をアッと言わせました。中道と思われていたのに、右派のトランプと組んだのですから、意外性は抜群でした。

政権発足後には、国務長官に抜擢されるのではという噂もあったのですが、危機管理コンサルの仕事を続ける中で、海外のクライアントを多く抱えており、カネのやり取りも相当あったことで、実現しなかったようです。

ところが、この2018年の4月末からジュリアーニ氏は、「トランプ大統領個人の顧問弁護士」として登場しています。噂としては、2001年に不倫の結果と批判されつつ結婚したジュディス夫人とは離婚しており、財産分与をしたのでカネが必要という説もあります。

一方で、トランプ選対当時に違法行為に巻き込まれており、FBIに財産を差し押さえられる前にジュディス氏に財産を移転するのが目的で離婚したという説もありますが、真相は不明です。

それはともかく、大統領の顧問弁護士に就任したジュリアーニ氏は、矢継ぎ早に放言を重ねて世間を驚かせています。

1つ目は、大統領と「ポルノ女優、ストーミー・ダニエルズ」との不倫問題に関して。選挙戦の前に「当時の顧問弁護士」だったマイケル・コーエンが、ダニエルズに13万ドル(約1400万円)の「口止め料」を払ったことが一番の問題になっていたのですが、ジュリアーニ弁護士は「弁護士が立て替えた」そのカネは「大統領が最終的には支払った」と明言し、大騒ぎになりました。

何しろ、大統領は「そのカネのことは知らない、コーエンに聞いてくれ」と言い続けてきたのですから、大統領がウソをついていたことになります。また、大統領として「金を出したのなら、不倫があったはず」というイメージを社会に与えることになるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 「解決策模索

ビジネス

日銀短観、大企業・製造業DIは4年ぶり高水準 米関

ワールド

ベネズエラ同盟国がマドゥロ氏支持表明、米の石油タン

ワールド

ノーベル委、平和賞受賞のモハンマディ氏逮捕を非難 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story