コラム

イラク日報問題、隠蔽内容と動機の追及が弱いのでは?

2018年04月05日(木)17時20分

もう一つの可能性は、「そもそも公開が猛烈に手間だったので隠した」というストーリーです。公文書を公開しようとすると、個人情報に関して敏感な社会情勢を受けて「あらゆる個人名」について原則かくす方向で処理することになります。文書が膨大であれば、その作業も膨大で、限られた要員の中では「できないことはできない」ために公開から逃げたという可能性はあると思います。

その一方で、「内容が政治的な波紋を呼ぶので隠蔽した」可能性も否定できません。仮説としては、

▼宿営地近辺に切迫した攻撃があり、戦闘状態が「ない」ことを派遣の前提としていたというストーリーが崩れるので隠した(南スーダンと同様の問題)。

▼オランダ軍などの犠牲に対して救援に行けなかった事実が露骨に記載されていて、公表すると「駆け付け警護」の是非問題についての論争を招くので隠した(その後、駆け付け警護は自衛隊の任務に追加)。

▼駐留期間中に深刻なパワハラ事件などがあり、それが隊員の自殺に直結したなど自衛隊として不名誉な内容を隠した。

▼駐留期間中に、宿営地近辺の人口流出が加速するなど、給水事業の意義が希薄化されるような事態が記載されていたので隠した。

▼反対に切迫した危険は全くなく、井戸掘りに終始した日々が延々と記載されているだけなので、巨額の税金を投入をした意味があるのかという批判を恐れて隠した。

▼切迫した危険がありそうなのに、一切そうした事実をカットして記述した不自然な日報なので、発表すれば日報の信憑性に疑念を生じるので隠した。

といった経緯が想定されます。仮にこのように内容面に理由があり、内容の公開を恐れて隠蔽をしたのであれば、深刻な事態だと言えます。

いずれにしても、内容を踏まえ、隠蔽の動機に踏み込んだ議論が必要です。森友に続く陸自スキャンダルというように、2つ並べただけの表面的な批判で終わらせては、政治の透明性確保という意味でもマイナスになるだけでしょう。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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