コラム

アメリカの進まぬ銃規制、繰り返す乱射の悲劇

2018年02月15日(木)15時15分

事件現場から避難する高校の生徒たち WSVN.com/REUTERS

<フロリダ州の公立高校で発生した乱射事件で生徒ら17人が死亡。それでも直ちに銃規制論議が進むことは期待できないのがアメリカ社会の現実>

2月14日のバレンタインデーは、アメリカでは盛大に祝う習慣があります。そのおめでたい日に、悲惨な事件が起きてしまいました。フロリダ州のフォートローダーデール近郊パークランドで、公立のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校に武装した男が押し入って強力な「アサルトライフル」を乱射し、生徒ら少なくとも17人が死亡する惨事になったのです。

この高校ですが、フロリダ州で自然保護活動をしたフェミニスト運動家であるマージョリー・ストーンマン・ダグラス氏の名前を冠した学校で、その命名の経緯からも分かるように、リベラルな風土の土地柄にあり、学校自体もレベルの高さを誇っているようです。

報道によれば乱射犯は、逸脱行動のためにこの高校を退校処分となった19歳の男とされています。男は、まず学校の火災報知器を作動させて生徒たちを戸外におびき出し、そこから乱射を始めて、殺害をしながら生徒たちを今度は校舎内に追い詰めたそうです。その上で、自分も生徒の1人になりすまして、一緒に手をつないで脱出し、そのまま逃走しようとしたようですが、身元が露見すると抵抗することなく身柄を拘束されています。

本稿の時点では、詳しい経緯は分かりませんが、乱射犯が逃亡時の偽装のために武装を解いていたことから、身柄確保にあたって銃撃戦などは発生せず、あっさりと拘束されているようです。この種の大規模な乱射事件としてはまれなケースとして、乱射犯本人への徹底的な捜査による事件の解明が望まれます。

アメリカの乱射事件としては、昨年2017年の10月1日にラスベガス市で58人が殺害されたコンサート会場への攻撃が全米に衝撃を与えました。実はその後も、例えば教育機関での銃撃事件としては、

■2017年年12月7日にニューメキシコ州アズテック市で高校が襲われ、2人が死亡。

■2018年1月23日にケンタッキー州ベントン市で15歳の高校生が構内で2人の同級生を射殺。そのほかに14人が負傷。

というように、多くの事件が起きています。ネットメディア「ハフィントンポスト」創業者のアリアナ・ハフィントン氏によれば、2012年12月のコネチカット州における小学校での乱射事件から現在までに、1607件の乱射事件が起きているそうです。

ですが、ニューメキシコの事件の際も、そしてケンタッキーの事件の時も、アメリカのメディアは鈍い反応しか示しませんでした。今回のフロリダの事件は、さすがに犠牲者数が大きいのでテレビは取り上げていますが、例えば五輪の独占中継を行なっているNBCは五輪特番を優先して定時のニュースでも小さな扱いしかしていません。

一見すると、アメリカ人は、銃を使った事件に麻痺してしまっている、そのためにこうした事件に対して、我慢したり見て見ぬ振りをしたりしているように見えます。ですが、そうではないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story