コラム

東京五輪は「ユニセックス・トイレ」にどこまで対応できるか

2017年07月20日(木)16時30分

「クローガー(Kroger)」という巨大小売チェーンは、2016年にユニセックス化したトイレの一斉導入を行って評価を高めています。また、ライバルの小売りチェーンの「ターゲット(Target)」も、トイレのユニセックス化を進めると同時に、ユニセックス子供服の販売を開始しています。

さらに、ユナイテッド航空が現在整備中のビジネスクラス専用の「ポラリス・ラウンジ」で、トイレはユニセックス化すると発表していましたし、大学のキャンパスでは、マサチューセッツ州立大学のアムハースト校、カリフォルニア大学のバークレー校などをはじめとして設置が進んでいます。職場のトイレも同様で、例えばニューヨークのダウンタウンにあるグーグルのオフィスのトイレは完全にユニセックス化されているそうです。

では、どうして一気に「男女別トイレの廃止」という動きになってきているのかというと、トランスジェンダーが「どっちを利用できるのか?」という問題が政治問題になるのを防げるからだけではありません。LGBTQの権利確保という立場からすると、「男女別のトイレ以外に少数のユニセックス・トイレを設けるのは差別だ」という考え方があり、全部のトイレをユニセックス化すれば、この差別問題もクリアできます。

【参考記事】カナダで性別を定義しない出生証明書実現の見込み

さらに、最近進んでいる「さらなる女性の権利拡大運動」の中で、職場における男女のトイレの数を「同数にしなくてはならない」という規制を法制化する動きが進んでいますが、全部をユニセックス化してしまえば、この問題もクリアできるというわけです。

この問題ですが、元来北欧などでは以前から当たり前になっている一方で、各国にはそれぞれの文化的背景からくる違いがあります。例えば日本では、法律上「男女の区別が義務付けられている」という問題、そもそも男女共用を嫌うカルチャー、さらには深刻な盗撮問題などがあり、この問題に関しては簡単に「全面ユニセックス化」とは行かないと思います。

それでも、2020年の東京五輪や、ここ数年の訪日外国人の増加という状況を受けて、「トイレ問題で、どんな人も不快にさせない」という工夫はもっと意識的にやっていかなくてはいけないと思います。

<お知らせ>
掲載時の内容に一部間違い、誤解を招く表現があったため、訂正しています(8月9日/編集部)

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

制約的政策、当面維持も インフレ低下確信に時間要=

ビジネス

米鉱工業生産、3月製造業は0.5%上昇 市場予想上

ワールド

米中、軍事対話再開 22年以来初めて

ワールド

中東巡る最近の緊張、イスラエル首相に責任=トルコ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story