コラム

トランプ政権移行チーム、「内紛」の真相とは

2016年11月17日(木)16時20分

 では、今回の「クリスティ派追放劇」というのは、そのジャレッドによる、個人的な復讐だったのでしょうか? 多くのメディアはそのように「面白おかしく」書き立てていますが、もう一歩踏み込んでみると、それだけではないようです。

 04~05年のクシュナー(父)への捜査は、単に苛烈な検事による資産家への厳しい追及という構図だけではありません。クシュナー家は、(実はトランプ家もそうですが)ニューヨークとニュージャージーの「民主党のタニマチ」だったのです。これに対して、共和党系の検事だったクリスティは執拗な捜査を行った、つまり政治的なバイアスのかかった「確執」と見ることができます。

 その後トランプ家は共和党に転じ、その娘とジャレッドが結婚したことから、クシュナー家も今回の選挙では共和党に転じているわけですが、それでクリスティとの確執がおさまったかというと、そうではないのです。

 と言うのは、クリスティ知事が、近年大きなスキャンダルを抱えているという別の問題があるからです。ニュージャージーでは有名な「ブリッジゲート事件」です。

【参考記事】トランプの首席戦略官バノンは右翼の女性差別主義者

 2013年11月にニュージャージーの州知事選挙があり、2期目を目指したクリスティは60%対39%という大差で民主党のチャレンジャーを破りました。その2カ月前の9月に、ニュージャージーの東側、ハドソン川を挟んでニューヨークに面しているフォートリー市で、不自然な交通渋滞が発生したのです。

 渋滞は、ハドソン川を渡る2階建ての大きな「ジョージ・ワシントン橋」に流入する車線が閉鎖されたために発生し、渋滞の車列はフォートリー市内にまで及んで、下校中の子供を乗せたスクールバスが巻き込まれるなど、大きな問題になりました。

 調査の結果、再選を目指したクリスティを応援していた側近が、知事への支持を拒んだ「フォートリー市長」への「嫌がらせ」として「故意に渋滞を発生させた」ことが判明、裁判の結果、今年11月4日(大統領選の直前)に2人の知事側近は有罪判決を受けています。(量刑申し渡しは来年2月)

 この事件ですが、当初から知事の関与が疑われていました。しかし訴追されたこの2人をスケープゴートとする中で、知事は一貫して関与を否定。この2人も証言の食い違いを見せなかったので、今でも知事のクビはつながっているのですが、州民は完全にソッポを向いた格好で、側近の有罪判決以後は支持率も20%を切り「2017年の再選は消えた」というのが州では常識になっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米主要港ロサンゼルス、5月の輸入は前年比9%減 対

ワールド

ベトナム、米との貿易交渉進展 主要な問題は未解決

ワールド

ベトナムがBRICS「パートナー国」に 10番目の

ワールド

トランプ米政権、入国制限に36カ国追加を検討
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story