コラム

「貧困たたき」と『「貧困たたき」たたき』には、どちらも具体策がない

2016年08月30日(火)15時00分

ferrantraite-iStock.

<NHKの報道番組をきっかけに巻き起こった「貧困たたき」と『「貧困たたき」たたき』の応酬は、どちらの側にも具体的な政策提案がないため議論が前進しない>

 NHKの報道番組の取材を受けて貧困の窮状を語った、シングルペアレントの家庭の高校生が、個人情報を特定されてインターネット上で中傷された事件は「貧困たたき」と名付けられています。

 なかでも、参議院比例区選出の片山さつき議員が、その取材を受けた高校生について、「ご本人がツイッターで掲示なさったランチは一食1000円以上。かなり大人的なオシャレなお店で普通の高校生のお弁当的な昼食とは全く違うので、これだけの注目となったのでしょうね」などというツイートをしたのが典型的な「貧困たたき」だとして批判を浴びているようです。

 この問題ですが、仮に超富裕層を10として、貧困で苦しんでいる層を1とした10段階で考えてみると分かりやすいと思います。片山議員のツイートは、確かに品はないですが、

「1のグループに再分配しろと7とか8のグループが大声を上げるたびに、再分配の恩恵を受けたくても受けられない自分たち3とか4のグループは怒りを覚える。まして、そのことを批判すると、7とか8のグループから、お前たちは1を差別する極悪人だと罵倒されるので二重の怒りを感じる」

 という「自称3や4」のグループを、自分の有権者層として意識しているということ、それ以上でも以下でもないように思います。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

 一方で、こうした動きへの批判もあるわけですが、街頭でデモまであったというのには驚きました。「生活苦しいヤツは声あげろ 貧困たたきに抗議する新宿緊急デモ」というのが27日、東京・新宿であったそうです。作家の雨宮処凛氏も加わったことが新聞で報じられていますが、実際には政治家の福島みずほ氏も駆けつけていたようです。

 前者が「貧困たたき」であるのなら、こちらは『「貧困たたき」たたき』というわけですが、こちらもあまり筋のいい話ではありません。

 先ほどの10段階のカテゴリで言えば、「1を救え」という声の上げ方が「7とか8」のカルチャーに寄り添ったもの(ご本人たちには心外かもしれませんが)であり、結果的に「3や4」の不満を抱えた層へのバッシングという回路に入っているからです。

 「貧困たたき」も『「貧困たたき」たたき』も結局は同じことではないでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送次期FRB議長にウォーシュ氏指名、トランプ氏「

ビジネス

米金利は「中立」水準、追加利下げ不要=セントルイス

ワールド

トランプ氏、ウクライナ紛争終結「合意近づく」 ロ特

ワールド

トランプ氏「イランは合意望む」、プーチン氏はイラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story