コラム

東大PEAKは「高辞退率」を恥じるな

2015年04月02日(木)10時47分

 最初にお断りしておきますが、私としては東京大学が駒場キャンパスに設置した「教養学部英語コース(PEAK)」に関しては、それほどのワクワクは感じていません。理由は単純で、直接的には本郷や柏の学部の国際化にはならないからです。

 秋入学構想の停滞に象徴されるように、東大の国際化が決して加速していない現実の中で「国際日本研究コース」あるいは「国際環境学コース」に絞った「英語での教育」というPEAKのコンセプトは、明らかに過渡的な措置だと思います。

 とにかく、東大は全学がPEAKにならなくてはならないのです。全学の国際化が進まない中で、「隔離された存在」としてPEAK「だけ」を推進するのは、あくまで暫定的な話であるべきです。

 例えば工学部で「東大が最先端」である領域の先進性を維持してゆくとか、世界における日本文化や日本語研究で最高の研究機関であろうとするならば、教育も研究も半分以上は英語で行い、世界から優秀な学生と研究者を集めなくては競争力を維持できません。

 だからと言って、現在のPEAKを批判するつもりはありません。良い研究者を集めて、良い教育が行われているという評判を聞いていますし、仮にこのPEAKが失敗に終われば、東大の国際化は更に遅滞すると思われるからです。

 このPEAKに関しては、2014年度の選考(14年4月合否発表、9月入学)に関して「辞退率が高かった」という報道がされています。事実としては、合格者の約70%が辞退し、入学したのは30%というところのようです。

 報じ方のニュアンスですが、各メディアの姿勢を見てみますと「最難関が滑り止めに」(共同)、「東大、世界に蹴られる」(読売)というようにネガティブなものが多く、これではPEAKは失敗というイメージが広がってしまうおそれがあります。

 冗談ではありません。全く正反対だと思います。この「70%辞退」というのは「勲章」です。大学として新しいコースの立ち上げに頑張っているとして、数字として評価されて当然であり、批判される筋合いのものではありません。

 まず国際的な大学入試の世界では「併願」は当たり前です。統一試験のスコアと書類選考、そしてアポの調整が可能な面接だけという制度上、無限に併願が可能なシステムだからです。

 その結果、どんな大学でも最低でも20%程度の辞退率はあります。例えば、アイビー8校の中で、比較的定員の少ないハーバード、プリンストン、イエールの3校はいずれも出願者比で倍率20倍前後という難関ですが、相互に併願が発生するために入試事務室としては併願を見越した合否判定に苦慮しているのが現状です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは158円前半で横ばい、ドルと円の売

ワールド

焦点:「米国売り」再燃の観測、グリーンランド巡るト

ビジネス

仏産ワインに200%関税とトランプ氏、平和評議会参

ワールド

イスラエル軍でPTSDと自殺が急増、ガザ戦争長期化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生物」が侵入、恐怖映像と「意外な対処法」がSNSで話題に
  • 2
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危険生物」を手渡された男性、「恐怖の動画」にSNS震撼
  • 3
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 4
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 10
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story