コラム

ろくでなし子氏の逮捕、何が問題か?

2014年07月16日(水)13時05分

 漫画家で美術家の「ろくでなし子」氏が逮捕されました。「わいせつ電磁的記録頒布」という容疑で、警視庁保安課が逮捕したと発表しています。問題視されたのは、女性器を「下卑たものとして扱うな」とか「自分にとっては手足と一緒」だという同氏の主張を込めた一連の創作活動の一部についてでした。

 報道によると、ろくでなし子氏は女性器をかたどった小型ボート(ネット上で見るとバナナボートのパロディのようです)を制作するためネット上で寄付を呼びかけ、寄付をした人に3Dのデータを配ったことが問題とされているようです。

 この事件ですが、メディアでは警察の発表をそのまま丸写しして、ろくでなし子氏のことを「自称芸術家」であるとか「わいせつデータの頒布」などと一方的に決めつけた報道がされており、こうしたメディアの対応への批判が起きています。

 DJが音楽を流す「クラブ」の規制問題などもそうですが、文化的・社会的な価値観が揺れている中で、社会全体に対する規制を「警視庁保安課」という官僚機構に「判断レベルまで委ねている」というのは、法制として、あるいは行政のあり方として前近代的であると思います。何らかの議員立法なり、幅広い層を集めたディスカッションなりをして、最低限の社会的合意を確立すべきであり、一官僚組織が文化を規制するというバカバカしい「旧体制」は止めるべきでしょう。

 この問題に関して、3つ問題提起したいと思います。

 1つ目は性表現や男女交際などの「風紀」に関して、「お上」と「反体制」が反目するという構図は、もういい加減にして欲しいということです。「お上」はあくまで保守的であるということもありますが、「反体制派」の方も、例えば痴漢行為や強姦などの犯罪を面白おかしく取り上げた作品でも「規制への反抗なら反体制運動」だとして正当化してきた歴史があるわけです。要するに体制と反体制の双方で男尊女卑をやっている構図であり、江戸時代から現在に至るナンセンスな歴史はいい加減に断ち切ってはどうかと思うのです。

 2つ目は、今回の摘発に見られる「無思想」ということの恐ろしさです。ろくでなし子氏の表現は、女性器を男性の欲望の対象として露出する、つまり俗にいう「わいせつ」な表現の対極にあると言いますか、むしろそのような「欲望の視線の対象」から自由にしようという趣旨であると思います。

 金銭の授受も問題視されているようですが、これも女性の身体をカネで食い物にするためではなく、むしろ自分を含めた女性の身体を欲望の対象から解放する、その表現の資金にしようという目的で寄付を募ったのです。それにも関わらず、官僚機構のガイドラインに引っかかると摘発を食らってしまうわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    反ワクチン政策が人命を奪い始めた
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 8
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 9
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story