コラム

ろくでなし子氏の逮捕、何が問題か?

2014年07月16日(水)13時05分

 もちろん、官僚機構なり法制が特定の価値観から自由であり、高度な客観性と中立性を持っていることは大切なことです。ですが、形式的なガイドラインに引っかかると摘発する、しかしその根拠と言えば価値観ともいえないような曖昧な「わいせつ」という話になるわけです。つまり実に薄い根拠にもとづいて権力が発動されているわけで、これは大変な問題だと思います。

 3つ目に、一つ提案があります。私は「わいせつ」という概念を解体して、その代わりに「性的アイデンティティへの冒涜」という概念で規制(ただし、法律ではなく社会的合意による自主規制)をしてはどうかと思うのです。

 現行の「わいせつ」というのは、男性の視点から見て「視覚的に欲望を強く刺激するもの」という観点であり、良く考えれば本当に「わいせつ」なのは「欲望の対象となる身体や表現」ではなく、「判断する人間の側のわいせつな気持」の方であるわけで、今回の一件でも明確なように論理的に破綻していると思います。

 その代わりに、例えば「異性のセクシャリティを中傷する」表現、「望まない性的行為を強要する」表現、あるいは「性的少数者を迫害する」表現を、まとめて問題視していくのです。その場合には、もちろんですが、作品全体の趣旨が正当であれば、部分的な表現を「機械的に規制する」ことは止めるべきでしょう。

 一方で、日本社会に野放しになっている「望まない性行為を強要する」とか「性的な関係性で他者を支配する」表現に関しては、かなり厳しくチェックしていく必要があると思います。

 具体的に言えば合意の上での性的行為が描かれているとか、性的行為という文脈ではなく単なる男性もしくは女性の身体表現ということであれば、表現規制は解除すべきと思います。ですが、その一方で「望まない性行為」の表現はたとえソフトなものであっても相当に厳しく自主規制する、あるいは社会的批判を受けるという社会的合意が確立されるべきではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドバイの米オラクル施設に迎撃破片が落下、負傷者なし

ワールド

トランプ政権による大学への人種データ開示命令を仮差

ビジネス

アングル:トランプ関税で変わる米国のメニュー、国産

ワールド

米戦闘機2機、イランが撃墜 乗員2人救助・1人不明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 9
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 10
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story