コラム

「六三制」見直し論、その根本思想が「逆」なのではないか?

2014年06月05日(木)11時45分

 文部科学省は「教育改革」の一環として、「六三制」の見直しを志向しているようです。発表されている資料などから浮かび上がるのは、俗に言う「小1プロブレム」や「中1プロブレム」というように、現在の学制が子どもの発達段階に合っていないという仮説に基づいて、次のような改訂を行うという方向性です。

 一つは、6歳からの小学校進学を1年繰り上げて5歳から義務教育の小学校のシステムに乗せるということ、もう一つは思春期の到来の早まりに対応するために、現在の5年生以上は小学校から切り離し、場合によっては中学に進めるという考え方です。仮にそうなれば、「六三制」ではなく「五五制」になるわけです。

 例えば、小学校入学の繰り上げをやらないで、中学進学だけを早めるのであれば「四五制」とかあるいは「五四制」などもあり得るということで、場合によっては地域事情によってバリエーションが出てきても良いという考えも出てきています。

「幼から小へ」あるいは「小から中へ」という過渡期にあたって、学校現場が困っているというのは分かります。ですから、「六三制」という学制を変更するというのも、方針としては間違っていないと思います。

 ですが、問題はそうした改革の「根本思想」です。

 まず「小から中へ」ですが、前提となっているのは「思春期に入ったら統制を強化する」という思想です。例えば、次のような発想法です。

「思春期に入るのが早くなっているから『小5や小6で悪質ないじめが起きる』ならば『5年生から中学校』にして校則で厳しく縛ろう」

「中1で『いきなり先輩後輩関係に放り込まれて苦しむ』のなら『小5から中学』にして『中3を頂点としたヒエラルキー』に馴染ませてしまおう」

「中1で『いきなり教科別担任制』になって戸惑うなら『小5から教科担任制』にしてしまおう」

 この中で「教科担任制」に関しては、やってみる価値はあると思いますが、残りの2つが象徴するような「小学生は子供らしく放任」するが、「思春期に入ったら何をするか分からないので統制する」という教育の思想というのは、成熟社会には全く適合しないのではないかと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米関税の影響、かなりの不確実性が残っている=高田日

ワールド

タイ経済成長率予測、今年1.8%・来年1.7%に下

ワールド

米、半導体設計ソフトとエタンの対中輸出制限を解除

ワールド

オデーサ港に夜間攻撃、子ども2人含む5人負傷=ウク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story