コラム

統合型リゾートというビジネスは、どうして成熟国の大都市向けではないのか?

2014年06月03日(火)12時44分

 来日観光客向けのビジネスとして「カジノ」を含めた「統合型リゾート」というものが検討されているようです。安倍首相は、シンガポールのアジア安全保障会議に出席して、サンズ運営の「マリーナ・ベイ・サンズ」とゲンティンが所有する「リゾート・ワールド・セントーサ」を訪問して、こうしたビジネスを高く評価していました。

 ですが、私はあまりウキウキするような感じは持てないのです。というのは、こうした「統合型リゾート」というものが、果たして「日本にわざわざ観光に来る」層にアピールするのか疑問だからです。

 そもそも「統合型リゾート」というのは何なのでしょう? それは、一旦チェックインしたら、何から何までそのリゾート内で遊んで満足できるような「全部入り」のリゾートということであり、要するに「空港からそのリゾートに来て、その滞在だけで満足できる」という作りになっているわけです。

 遊びだけでなく、例えば「インセンティブ旅行を兼ねた会議」とか「バケーションを兼ねた来場者を想定した見本市」などという半分仕事のツアーの場合でも、「コンベンション・センター」とホテル、カジノ、レストラン、プールやフィットネス、ショー観劇といった機能が統合されていれば、「その施設だけ」で全てが完結するわけです。

 では、どうして統合型にするのかというと、運営企業としては単なる宿泊だけでなく、料飲部門やカジノを含むエンターテインメント部門の売上を含めた、パッケージとして収益を稼ぐことができるからです。これはビジネスの側の事情です。

 一方で、観光客の場合はどうかというと、便利だということがあります。とにかく、その施設だけで全てが完結するのですから、面倒ではないし、例えば治安や交通に問題があるとか、その施設以外にはロクな飲食店やエンターテインメントがないという場合は、その統合型リゾートで満足できるということになります。

 ですから、例えばバハマ諸島やケイマン、ジャマイカ、セント・トーマスといったカリブ海のリゾート地、大都市から離れたフロリダのリゾート、メキシコのリゾート、ワイキキ以外のハワイのリゾートなどは、そうした作りになっているわけです。こうしたロケーションには、豊かな自然はある代わりに、カルチャーに関するアピール度は弱いからです。

 では、東京の場合はどうでしょう?

 その前に他の成熟国の大都市を考えてみることにしましょう。例えば、ニューヨークにはありません。ロンドンにも、パリにもありません。こうした成熟国の大都市には、どうして統合型のリゾートがないのでしょうか?

 必要がないからです。こうした都市の場合、外国からの観光客が期待するのは「その都市ならではの経験」です。つまりカルチャーの力であり、具体的には極めて高度なパフォーマンス芸術、美術館・博物館、高いレベルもしくはお国柄を反映した食文化、そして買い物、更には都市の中の散策、地元の人との交流といった経験です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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