コラム

2011年「保守政治」に可能性はあるのか?

2011年06月13日(月)12時26分

 アメリカの景気は拡大スピードが鈍る中、雇用統計も一向に改善しないことで、雰囲気的には相当にブレーキがかかってきたようです。そうなると、俄然活気づくのが共和党陣営です。オバマが経済政策で信を失うようですと、無理と思われていた「再選阻止」ということも、全く非現実ではないからです。

 その大統領選の候補者選びということでは、ここへ来て少し動きが出ていました。ハッカビー、トランプの撤退と、ギングリッチ陣営の混乱を受けて、実務型の候補としてはロムニー前マサチューセッツ州知事が浮上、その一方でペイリン前アラスカ州知事も虎視眈々とチャンスを伺っています。

 前にも述べたように、ペイリンが「再び副大統領候補」というのは非現実的なので、可能性としては「ペイリン+ロムニー」あるいは「ペイリン+ポウレンティ」「ロムニー+バックマン」などという組み合わせになってゆくのではと思われます。

 問題は2011年の今日、果たして「保守政治」に可能性はあるのかということです。

 財政危機を受けて一層の財政規律を、というのは政治的な掛け声としてはあるかもしれませんが、大統領選において「自分の任期内は超緊縮財政」などという公約がどこまで可能なのでしょうか? 例えば、現在の雇用低迷のほとんどは公共セクターのリストラによるものであり、こちらを進めるにも限度があるわけです。

 オバマの医療保険改革、年金や福祉に関して、現行制度を更に見直してコストカットを行うことは果たして可能なのでしょうか? 例えば高齢者医療(メディケア)や年金に関して大胆なカットを主張したケースなどでは、共和党として補選の取りこぼしが出てきています。福祉のカットというのは言うことは簡単ですが、実行は難しいと思われます。

 では、より一国主義的な外交を押し進めて、ヨーロッパや中東、中ロなどと距離を置くような姿勢は可能なのでしょうか? これも難しいでしょう。現在進行形の欧州通貨危機、中東の民主化などの支援を行わずに、アメリカが「引きこもる」というのは非現実的です。

 逆に、過去の共和党政権の場合には国連決議を背景に湾岸戦争に出たり、イラク戦争を仕掛けるような「共和党の戦争」に突き進んだケースもあります。この点について言えば、今の共和党は「軍事費も聖域化せず」という国家の大リストラを進める立場ですから、こちらも全く不可能です。

 結局のところは、仮に共和党が政権を取っても、オバマの「中道路線」とは大して代わり映えのしない中道実務政策しか取りようがない、つまり政策選択の幅はかなり狭いということが言えそうです。2011年の現在、政策論としての「保守政治」はそれほど可能性はないのです。もしかしたら、共和党自身が、そしてその支持者が、あるいはそれ以上に中間層がそのことに気づいたら、そこで初めて共和党には勝機が出てくるのかもしれません。

 2000年に「真面目すぎる」からと、アル・ゴアを大統領に選ばなかったアメリカの有権者が、今再び「オバマと一緒にクソ真面目に前のめりになっていても、景気や雇用はちっとも良くならなかった」と思い始めたら・・・? ひょっとすると、ひょっとするかもしれないのです。ここ数週間の「景気スローダウン」というムードで、オバマの支持率は「ビンラディン殺害前」の50%割れに戻ってしまっています。ある意味では、政治のドラマの次の幕が静かに開きつつあるのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタン首都で自爆攻撃、12人死亡 裁判所前

ビジネス

独ZEW景気期待指数、11月は予想外に低下 現況は

ビジネス

グリーン英中銀委員、賃金減速を歓迎 来年の賃金交渉

ビジネス

中国の対欧輸出増、米関税より内需低迷が主因 ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story