コラム

ペイリン「大統領」の可能性はあるのか?

2010年09月20日(月)11時50分

 1カ月半後に迫った中間選挙の情勢は、ますます共和党有利というムードが濃くなっています。ですが、今回の中間選挙における共和党には異常な状態が続いているのです。それは「2年後の大統領選を意識したリーダー候補」が表には全く出ていないということです。中間選挙というのは、与党にとっては2年前に当選した大統領への信任を問う場ですが、追う野党の側からはその2年後にホワイトハウスを奪還するための前哨戦という意味合いがあるからです。

 例えば、4年前、2006年の中間選挙というのは野党であった民主党が圧勝しました。この時は、例えば当時は「大統領へ向けてのトップランナー」であったヒラリー・クリントンは、上院議員として自身2期目となる選挙を有効投票の3分の2という圧倒的な得票で勝利することで大統領候補として認知されたわけですし、オバマ現大統領も、新人議員ながら全国での応援演説に駆けまわって、存在感を示したのは記憶に新しいところです。

 そう考えると、現在の「誰もいない」共和党の状況は極めて異例です。その共和党ですが、大統領候補は不在ながら、応援演説に引っ張りだこのスターはいるのです。前アラスカ州知事、前副大統領候補にして、党内グループ「ティーパーティー」の実質的なリーダー、サラ・ペイリン女史に他なりません。では、どうしてペイリン女史は表立って「大統領候補」として取り沙汰されないのでしょうか? またペイリン以外の有能な上院議員や知事経験者などでリーダー候補に擬せられる人物はどうして登場しないのでしょう?

 まず「ペイリン大統領候補」ということが表立って言われないのには2つ理由があります。1つは、彼女への「不支持層」への配慮です。2年前に副大統領候補としてメディアの脚光を浴び続けた時から、政治経済全般への見識や資質、極端な宗教保守派という世界観などは、反対派の激しい反発を買ってきました。ここで共和党全体の「顔」として彼女が登場することは、民主党はもとより共和党の穏健派からもネガティブな反応が出るのは明らかであり、それが中間選挙への悪影響となってはダメという計算はあると思います。

 もう1つは、現在の「無役」に徹していることが不思議なカリスマ効果になっているという「支持派」への配慮です。それは「欲がなさそう」ということと、「(前回大統領選の)負け犬が奮起している」というイメージがあり、また同時に「極端な保守派」として「汚れたワシントンのエスタブリッシュメントの一翼を担う共和党穏健派」から距離を置いているということが支持派には喜ばれているということもあります。

 では、どうして他のリーダー候補が出ないのかというと、それは「そのペイリンを恐れている」ということに他なりません。例えば、穏健実務派のベテラン政治家を担ごうとすると、ペイリン支持の「ティーパーティー」系のグループから、「不法移民に甘いから真正保守でない」とか「中絶や同性愛への反対姿勢が弱い」などという理由で潰されてしまうからです。また、ペイリン支持の背景には「有色人種は自分の代表とは思えない」という強烈なホンネがあるわけで、そのために期待されていたルイジアナのジンデル知事(インド系)などは、共和党を引っ張る存在としては取り沙汰されなくなくなりました。

 そうはいっても、ペイリン旋風はますます強烈になってきており、日に日に存在感は増すばかりです。共和党内にも、レーガンと同じように、就任前には「極右すぎるし、知性に疑問」と思われていたキャラが、優秀なブレーンを使いこなして成功裏にリーダーシップを発揮する、そんな形での「ペイリン大統領」というのも「アリ」ではないかという声が出始めています。では、本当にペイリン自身が「大統領候補」として名乗りを挙げるというストーリーはあるのでしょうか?

 2つ条件があると思います。1つは、現在5名いる上院の「純粋ティーパーティー系」候補が中間選挙で善戦することです。4勝1敗もしくは3勝2敗ということですと、ペイリンの権威は更に高まると思います。ただ5戦全勝となるとこれは脅威となり、共和党の主流派も「潰し」を真剣に考えるようになるかもしれませんし、今度はペイリンが「極端な主張」から現実的な公約へと歩み寄ることが難しくなります。もう1つは、今申し上げたようにペイリン自身が現実的な方向へ歩み寄ることです。そして「ティーパーティー」という「党内党」を発展的に解消することです。これができずに、主流派との間に怨念を引きずっていてはダメでしょう。

 では、仮に「ペイリン大統領候補」が2012年にオバマに挑戦してくるとしたら、オバマ陣営の「迎撃体制」はどうなるでしょうか? 私はズバリ、民主党としては「オバマ=ヒラリー」コンビで強力に対抗してくる、そう見ています。ヒラリー自身が、ここのところオバマの指導力に心酔していること、またヒラリーであれば、ペイリン票の中から「穏健保守女性票」は根こそぎ持って行けるからです。バイデン副大統領はどうなるのかという点が気がかりですが、今回のイラクからの戦闘部隊撤収あたりで、この人の役割については一巡したようなムードが漂っており、勇退ということもあるかもしれません。

 仮に「オバマ=ヒラリー」となると、ペイリンの勝機は限られてきます。何と言っても、ペイリンの弱点は「保守に過ぎる」ということ、とりわけヒスパニックを敵に回していることがネックです。その場合は、例えばウルトラCとして、共和党政治家の中で珍しくヒスパニック社会に広範な支持を誇るジェブ・ブッシュ(ブッシュ前大統領の弟、前フロリダ州知事)と組むというようなことがあり得るかもしれません。ただ、ジェブは家庭内で反対が多い(らしい)のと、もしかすると共和党主流派に担がれる可能性もあるという点で、「ペイリン=ジェブ」という組み合わせの可能性は低いようにも思います。いずれにしても、11月の中間選挙が終われば、一気に米政界は2012年へ向けて動き出すことでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米1月CPI、前年比2.4%上昇 伸び鈍化し予想も

ワールド

米・ロ・ウクライナ、17日にスイスで和平協議

ワールド

米中外相、ミュンヘンで会談 トランプ氏の訪中控え

ビジネス

EU貿易黒字が縮小、米関税と中国の攻勢が響く
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベルの「若見え」な女性の写真にSNS震撼
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 6
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 7
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    やはりトランプ関税で最も打撃を受けるのは米国民と…
  • 10
    着てるのに見えてる...カイリー・ジェンナーの「目の…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story