コラム

歴史的な中台会談で台湾国旗は翻るのか

2015年11月06日(金)17時30分

 総統選挙が来年1月に迫る中、台湾総統の馬英九は突然、シンガポールで習近平と会談すると宣言。世界を揺るがすビッグニュースになった。興味深いことに、国家の尊厳を守るため2人は共に「先生」と呼び合うそうだ。

 習近平は53年生まれ、馬英九は50年生まれ。中華民国は12年に、中華人民共和国は49年に誕生した。国家同士を比べても、またその指導者と比べても、「先生」と呼ばれるのは台湾側であり、中国は後輩でしかない。

 共産党政府は80年代以降、国を開放することで経済を猛スピードで成長させ、世界が軽視できない巨大国家に変身。巨大経済の優位性を利用して積極的に共産党の価値観を輸出し、世界のいたる所で中華民国の地位に圧力を加えてきた。49年に「学生」は「先生」を打ち負かしたが、ここ十数年間、もしアメリカの干渉がなければ、「学生」はとっくに「先生」を飲みこんでいただろう。

 習近平も馬英九も共に「1つの中国」を前提にしているが、馬英九は「1つの中国が何を意味するのかは、各自が述べ合う」という立場を堅持している。しかし習近平にとって「1つの中国」は中華人民共和国で、これに妥協の余地はない。馬英九は「馬習会談」によって歴史的人物となり、さらに会談を台湾の選挙に利用しようとしているが、共産党に対して警戒心を抱く一部の台湾の人々はこれを受け入れないだろう。人民解放軍は1200発のミサイルで台湾を狙い、共産党はここ数年来、経済や政治、メディアなどの各方面で台湾への浸透を図っているが、この結果、台湾の人々にかえって強烈な反発意識が生まれた。これも来年の総統選で民進党が勝つという予想が広がる原因だ。

 習近平にとって会談はこの上なくすばらしい出来事だ。国内メディアに「統一」の大合唱をさせることができるし、彼の人気も上がる。馬英九にとっては、共産党の指導者と絶対に会わないと誓った11年の約束を裏切ることになるが、49年の国民党の台湾撤退と共産党の大陸統一以来、初の中台会談で歴史に名を残すことができる。

 シンガポールの空に2つの国旗は同時に翻るのだろうか。それとも五星紅旗は青天白日旗を圧倒するのか――両目をしっかり開けて見守りたい。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story